(愛知保険医新聞2023年8月25日号)
「かかりつけ医機能」制度整備を含む全世代型社会保障法案が5月に成立した。法案をめぐる議論で財務省などは、「かかりつけ医がいない(弱い)ことがコロナ死増につながった」とし、かかりつけ医の「制度化」(法制化)を主張していた。
これに対し、日医は「かかりつけ医はあくまで国民が選ぶもの。国民にかかりつけ医選択を義務づけたり割り当てることには反対」と主張し、自民党医系議員も「平時の医療と、未知の新興感染症の感染拡大期(有事)の医療は、峻別すべき。これを意図的に混同させて、かかりつけ医の『法制化』(認定制、登録制、人頭払いなど)を進めるのは、議論の進め方が間違っている」と指摘した。
法改正では、「かかりつけ医機能報告制度」の新設(2025年度以降)が盛り込まれたが、この報告は、国が示す医療機関の一定の実態を報告するものに過ぎず、国・都道府県がかかりつけ医機能を持つ医療機関を認定・検証するような制度ではないことが確認されている。
一方で、財務省と健保連は「医療費抑制」の視点を最も重視しており、医療の質や国民の健康は二の次に置いている。「かかりつけ医機能を中心に、地域完結型の医療・介護提供体制を構築」と謳い、急性期・回復期病院の機能分化や専門外来・一般外来の機能分化などを促すことで、大病院での専門的な検査や治療を制限し、要介護者に対して積極的な治療介入を抑制することをめざしている。「川上」(高度・急性期)から「川下」(慢性期・在宅)へ患者を押し流した後は、川上への逆流(入院)をできる限り防ぐ狙いがある。
しかし、在宅重視と言っても支える家族がいない独居の増加や、老老介護で家族崩壊もある現在の社会で必要なことは、介護や在宅福祉の施設・制度整備などであり、安上がりな在宅医療・介護政策は改められるべきである。
「かかりつけ医機能」の充実は、あくまでも「医療の質の向上」を目的とすべきで、医療費削減が目的となってはならない。そのためには、診療報酬・介護報酬の改善も必要である。
今回の法改正では見送られたが、最初の受診先を事前に決めておく「登録制度」や「かかりつけ医機能」を担う医師の質・機能を公にチェックする「認定制度」を、財務省などは諦めておらず、今後の議論に警戒を怠ってはならない。