(愛知保険医新聞2024年2月15日号)
働き方改革関連法で、時間外労働時間の上限は、2019年4月から原則月45時間、年360時間とされた。医師については2024年4月から原則年960時間、地域医療確保等のため年1,860時間の特例がある。1,860時間は過労死基準の約二倍となる。医療の安全や過労死防止の観点から問題である。
地域医療を担う中核病院などでは医師確保が常に厳しく、大学病院からの医師派遣がなければ、地域医療の確保が困難になる。医師派遣を行う病院では、自院と派遣先の病院との時間外労働の合計が上限を超えないよう、「宿日直許可」のない病院への派遣を断るケースが出てくる可能性がある。「宿日直許可」は、医師が夜間や休日に原則病院で待機する宿直・日直の時間を勤務時間に含めないとする労働基準監督署の許可で、従事する業務は、ほとんど労働がなく軽度または短時間の業務に限られる。しかし、宿日直中に1時間に10人以上の診察を行っているという報告もあり、「宿日直許可」が上限規制の抜け道になることが懸念される。
また、研鑽をどこまで労働と認めるかは、専門職である医師にとって切実な課題である。労働とされてきた研鑽が労働時間とみなされない「自己研鑽」になれば、見かけの労働時間は減っても長時間労働は改善されない。厚生労働省は1月、大学病院の勤務医師で本来業務に含まれる教育・研究は労働時間としたが、本来業務と研鑽の区分が明確でないことが多く、労働に該当するか上司との相談を求めている。診療に関わる研鑽は労働時間として保障するべきである。
そもそも医師の過重労働は、医師養成数の抑制政策による医師不足と低診療報酬政策に問題がある。昨年秋に取り組んだ診療報酬引き上げを求める医師・歯科医師要請署名には勤務医の協力も多く、「医療従事者はQOLから給料の面まで、こちらの善意や職務意識を利用され冷遇、放置され過ぎている」など切実な声が寄せられた。協会では2024年度に勤務医の労働実態調査を行う予定である。働き方改革が真の労働改善につながっているのか検証を行い、国に「医師不足」解消への抜本的な対策と医療機関が勤務医の労働条件を改善できる診療報酬など十分な財政的保障を要請していきたい。協会は開業医・勤務医一体の組織である。よりよい医療を目指す同じ医療従事者として、過酷な勤務医の待遇改善を求めていこう。