(愛知保険医新聞2023年3月25日号)
通常国会で2023年度予算案の審議が進められている。予算案は、敵基地攻撃能力の保有など戦後の安全保障政策を大転換する内容を盛り込んだ「安保三文書」をもとに、今後5年間で43兆円もの防衛費大幅増額を進める内容となっている。防衛省所管分だけで約6.8兆円(対前年度比24.6%増)、財務省所管分の「防衛力強化基金への繰り入れ」約3.4兆円をあわせると10兆円を超える。
国会審議では、防衛省が5年間で4兆円をかけて自衛隊基地を強靱化する計画が明らかになり、核・生物・化学兵器による我が国への攻撃を想定し、自衛隊病院を含む基地の地下化などが記載されている。日本への「敵基地攻撃」によって日本中が攻撃にさらされることを示すものである。
安保法制と安保三文書によって、アメリカが行う海外での戦争に日本も巻き込まれることになる。2月末に閣議決定された自衛隊とオーストラリア軍との相互アクセス・協力円滑化協定は、アメリカと同盟を結ぶ日・豪部隊のインド太平洋地域への展開を具体化させるものである。
防衛費大幅増のための予算は新たに年5兆円以上が必要となる。政府は、国立病院機能積立金、地域医療機能推進機構の総額約750億円の積立金を防衛費に充てることを示している。
防衛費に充てる5兆円規模の予算があれば、医療費窓口負担の軽減や年金給付の充実、大学授業料無償化、学校給食無償化など、国民の暮らしは格段に充実できる。
また、来年度予算案では医療・社会保障費などは自然増分を1500億円削減する内容となっている。5月8日からの新型コロナウイルスの5類化を目前に、診療報酬加算措置の3月末での打ち切り、1年以内にコロナ病床を廃止する方針を示すなど、新型コロナ対応の医療提供体制縮小が相次いで打ち出されている。
社会保障はGDPの2割強を占める経済活動そのものである。2012年版の厚生労働白書には「経済成長と社会の安定に寄与し、雇用を創出する。高齢世代の私的扶養を代替することで現役世代の生活保障にも貢献している」と書かれており、社会保障を拡充することは経済成長を進める確かな施策である。
命を守ることを使命とする医師・歯科医師の団体である私たちは、評論家で医師の故・加藤周一氏の次の言葉を借りて訴えたい。「戦争の準備をすれば戦争になる。平和を望むならば、平和の準備を」。