(愛知保険医新聞2023年3月15日号)
二〇二二年十二月、原発に関連する四つのパブリックコメントが募集され、わずか一カ月の期間であったが三千三百件を超える意見が寄せられた。協会公害環境対策部も原発ゼロ推進の立場から、それぞれパブコメを提出した。原発運転延長反対などの声が大多数であったにも関わらず、岸田政権は二月十日、エネルギーの安定供給や気候危機対策を口実に、原発の新規建設や六十年を超える運転を認めるなどとした「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定した。そして原子力基本法、電気事業法など改定五法案を一括し、国会に提出した。
この法案は、運転延長を目論むとともに、運転期間ルールの所管を原子力規制委員会(原子炉等規制法)から経産省(電気事業法)に移すなど、原発推進の姿勢がはっきり現れている。改正に向けた議論は前のめりで、原子炉等規制法改正案は、反対意見を押し切って異例の多数決で決定された。
そもそも原発は四十年稼働をめどに設計されており、老朽原発は中性子による原子炉の金属劣化など安全性に懸念がある。交換できない部品も多く、電力会社の点検できる範囲も限定的である。また、原発はウラン原料の採掘、精製、加工時などに二酸化炭素が排出され、そのプロセスでも船などによる輸送で二酸化炭素が出る。さらに、原発は計画から稼働開始まで長い時間がかかり、二〇三〇年度の温室効果ガス四六%削減目標にも全く間に合わない。エネルギー安全保障、安定供給を目指すのならば、太陽光、小水力、地熱、風力、潮力など再生可能エネルギー普及が重要で、原料を海外に頼る原発はやめるべきだ。核のゴミ処理問題も未解決のままで、これ以上核のゴミを増やすべきではない。
原発は事故やトラブルが頻発する不安定な電源で、ひとたび事故やトラブルが生じれば、住民の健康と生活に取り返しのつかない影響を与えることは、東日本大震災での東京電力福島第一原発事故で、痛切に学んだ教訓である。その反省もない「原発回帰」は許されるものではないし、ましてや国民無視の閣議決定、法案提出は言語道断である。
いのちと健康を守る医師・歯科医師として、「GX実現に向けた基本方針」の閣議決定に強く反対し、撤回を求めるとともに、国会提出された法案の廃案を求める。