2021年5月16日

歯科患者署名-自己責任論を打ち破る大きな力に

(愛知保険医新聞2021年5月5・15日合併号)

 4月から「保険でより良い歯科医療を求める請願署名」の取り組みがスタートした。この署名は、小泉構造改革の矛盾が明らかになった2007年から始まった。小泉首相は、郵政民営化や公共事業を絞り込み「小さな政府」を目指した。それに呼応するかのように、2006年日本歯科医師会は「湘南宣言」で混合診療を推進する立場を打ち出した。2008年江藤日本歯科医学会長(当時)は、選定療養や自費診療に活路を見出すことを主張した。同年11月、社会保障国民会議の最終報告では、自己責任論が打ち出された。しかし、コロナ禍の下、自己責任論では新型コロナ感染拡大は防げず、国民の命と生活は守れないことが明らかになった。今回の署名活動はこの流れを断ち切る大きな力となる。
 歯科署名の請願項目は3つ。まず1番に「患者窓口負担の軽減」。医療や介護の保険料が上がる一方、高齢者の命綱である年金が減らされている。窓口負担が増えると患者さんはお金が心配で医療にかかれない。これは医科歯科共通だ。
 2つ目は「保険でできる歯科治療の範囲を広げてほしい」だ。歯科の場合、開業歯科医師が普通に行える医療技術や医療材料が保険適用されていない。日歯は混合診療容認の姿勢を崩しておらず、若い歯科医師は保険診療に魅力を失っている。公的医療費抑制を錦の御旗に掲げる財務省、それを打ち破れない厚労省は、歯科医療経営の「保険と自費のトータルバランス」論を崩していない。しかし、国民は毎月決して安くない保険料を納めているのだから、これは国民への背信行為である。医科の先生には、歯科医療のあり方が医療改悪の先例づくりになる可能性があることを知ってほしい。
 3つ目は「歯科医療に対する国の予算を増やせ」だが、これは歯科に限ったものではない。診療報酬は医療行為への対価であり、国民が受ける医療の質と範囲を決める。安心安全で質の高い医療の提供には、それだけの予算をつけなければ絵に描いた餅となる。低医療費政策の中、歯科はこれまでもぎりぎりの状態で医療活動を強いられてきた。
 この14年間の取り組みで全国200万筆以上の署名が集まり、これが力となり多くの議員がこの問題を国会で取り上げた。歯科に限らず全国の医療改善署名が、医療改悪を止める運動に役立ってきた。コロナ禍の中、国民の命と生活を守る一助として5万筆の目標達成にご協力をお願いしたい。

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