2021年8月27日

軍事費と社会保障-国民の命と健康を優先する政策転換を

(愛知保険医新聞2021年8月25日号)

首都圏に緊急事態宣言が出される中、東京五輪が開催された。予想されていたように新型コロナウイルス感染拡大が止まらない。政府は病床逼迫を改善する手立てを取らず、「入院は重症患者や重症化リスクの高い人に限定」するという療養方針を示した。一体どこに「国民の命と健康を守る」政治があるのだろうか。
新型コロナウイルス感染症が明らかにしたことは、グローバル経済と新自由主義的規制緩和の結果もたらされた脆弱な社会保障・公衆衛生の姿である。しかしその中でも医療者は日夜分かたず新型コロナ患者の治療にあたり、これ以上の感染拡大をくい止めるため日々の診療に加えワクチン接種の普及にも尽力している。「国民の命と健康を守る」姿がここにこそある。
政府自民党はどうか。国民には、介護施設を利用する低所得者の食費などの補助や介護利用料の自己負担限度額の改悪をこの8月に実施、75歳以上の医療費窓口負担2割化も予定通り実施する構えだ。骨太の方針2021には社会保障費の自然増削減路線を向こう3年も続けることを掲げた。その一方で防衛費は9年連続の増額、過去最大を7年連続で更新し、2021年度予算は5.3兆円となっている。その中にはステルス戦闘機や護衛艦を事実上空母化する改修費用など「敵基地攻撃能力」を目的とした費用が多く盛り込まれており看過できない。これまでの政府の立場である「自衛のための最小限の範囲」すら超え、憲法を踏みにじるものだ。医療機関も国民生活も疲弊する中、防衛費は伸び続け、社会保障費は削減され続ける事態は到底納得できるものではない。
今、世界で人類の生存を脅かす重大課題は感染症と気候変動、核戦争の危険である。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は核保有国9カ国が2020年に726億ドルを核兵器関連予算に充てたとの報告書を発表した。コロナ禍にもかかわらず前年から14億ドルも増加している。2020年の世界の軍事費も推計値が残る1988年以降の最高額、1兆9810億ドル(出典:ストックホルム国際平和研究所)にのぼった。しかし、新型コロナパンデミックはまだ収束にはほど遠い。
反核医師の会39周年記念講演で講師の川崎哲氏(ICAN国際運営委員)は「気候変動や新興感染症への対応こそが優先すべき安全保障であり、安全保障の考え方の転換が必要だ」と語った。
人を守るのは武器ではなく、社会保障・公衆衛生である。予算を軍事費から社会保障に回す政府でなければ国民の命と健康は守れない。

ページ
トップ