(愛知保険医新聞2021年9月15日号)
来年度政府予算編成は、菅首相の自民党総裁選不出馬表明で、トップ不在の編成という、異例の展開となっている。来年度予算概算要求が示され、総額111兆円超となっているが、コロナ禍の影響が見通せないとして、予算を示さない「事項要求」も多く、実際の規模はさらに膨らむことが予想される。
問題は内容である。コロナ禍に対応すべき厚労省の概算要求は、2021年度比8,000億円余り増の34兆円弱で過去最大だが、項目を見ると「新型コロナウイルス感染症から国民を守る医療等提供体制の確保」に56億円、「検査体制の確保、保健所検疫所等の機能強化、ワクチン接種体制の構築」に29億円ほどであり、2桁、3桁予算が少ないとの印象が否めない。政府のコロナ対策の消極姿勢を端的に表している。
2020年度の概算医療費は、前年度比1.4兆円(3.2%)減ったと発表された。新型コロナウイルス感染拡大に伴う受診抑制が大きく影響したことは明白である。科別に見ても、小児科(22.2%)、耳鼻咽喉科(19.7%)などの減少が顕著で、当協会にも患者減による経営難で閉院という例が寄せられている。保団連・保険医協会は、受診抑制は症状悪化や早期発見・早期治療の妨げにつながるとして昨年の早期から国による対策を求めてきたが、具体的な手立ては講じられていないままである。
一方、防衛費は、菅首相が4月の日米首脳会談で「自らの防衛力を強化する」と表明したのを受け、8年連続の過去最高額規模となっている。内容も、最新鋭のステルス戦闘機や垂直着陸可能戦闘機は昨年比倍増など、「敵基地攻撃能力」の保有につながる兵器の導入・開発が含まれているのは看過できない。次年度以降の後払いの負担が2.8兆円もつぎ込まれることを含め、コロナ禍で抜本的な拡充が求められている国民生活関連予算を圧迫する予算は到底容認できない。
内閣府が9月1日に発表した「満足度・生活の質に関する調査」結果によると、回答者全体の平均満足度は10点満点中5.74点で、昨年比0.09ポイント減少。女性の減少幅は男性の2倍で、コロナ感染への不安やストレスが、女性により多く影響をもたらしているといえる。
政府予算が、コロナ禍にしっかり向き合い、国民の生活不安に応えるものとなるよう、トップを決めるところから、私たちの声を反映できるよう願いたい。