(愛知保険医新聞2023年11月5日号)
11月3日、日本国憲法は公布77周年を迎えた。
ここでは、憲法第9条(戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認)に関して、この間成立した法律や、改憲の動きの中から、第11条(基本的人権の保障)、第13条(すべて国民は、個人として尊重される)、第22条(居住・移転の自由)などとの関連で、国民の人権を脅かすという観点で考えてみたい。
防衛産業強化法・・・不採算の防衛産業を国が買い上げるほか、装備品等の製造企業に守秘義務を課すため、従業員や接触する周辺の国民にも国防秘密を守ることを義務づける内容である。医療機関を受診した該当企業の従業員が、何によって生じた傷病なのかを言えずに、治療に支障を来す可能性がある。医療機関側にも国防に関して守秘義務が課される。
土地利用規制法・・・自衛隊基地や原発などの周辺1キロメートルを「注視区域」などと指定(愛知県内でも県営名古屋空港、高蔵寺弾薬庫や自衛隊基地・駐屯所が指定候補)し、区域内の土地・建物の「利用状況調査」を行い、国の主観で土地・建物の利用を制限できる。居住・移転の自由を脅かす内容となっている。
改憲:緊急事態条項・・・維新・国民各党が、「緊急事態」条項の憲法改正条文案を発表(6月)。条文案は「緊急事態」の規定として、「武力攻撃」「内乱やテロ」と並んで「感染症の大規模蔓延」も盛り込んでいる。感染症に関する各種規制は、既存の法整備で可能であるにも関わらず憲法に国民の権利制限を盛り込もうとしており危険である。医療関係者では、元日医会長の横倉氏も緊急事態条項の制定を在職中から求めており、医療関係者が改憲発議の流れに取り込まれないか懸念される。
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最後に、憲法第9条に関して、日本の世論は依然として、憲法第九条を守ることと平和外交を行うことを求める声が多数派であるということを確認しておきたい。日本世論調査会の「平和に関する全国郵送世論調査」(8月、中日新聞報道)では、「日本が戦争をしない国であり続けるためには何が最も必要だと思いますか」の問いに対し、「戦争放棄を掲げた憲法9条を守る」28%、「平和外交に力を入れる」32%で両方合わせて6割に達している。故坂本龍一氏は、「戦争は外交の失敗の結果」と表したが、日本が再び戦争をする国にならないための外交の努力が一番に求められている。