(愛知保険医新聞2023年5月25日号)
街には初夏のにぎわいが戻りつつあるが、国会には異常な空気が流れている。
5月12日には、健康保険法等改正法案が、自・公・維・国各党の賛成で可決成立した。四割の後期高齢者の医療保険料を引き上げたが、出産育児一時金引き上げの財源の一部に充てられたのは、加入者のリスクに備える性格の社会保険制度と相容れないやり方で大問題である。910億円もの国費削減と一体であることも公的責任後退で問題である。
4月27日には、現行の健康保険証を廃止してマイナンバーカードと健康保険証を一体化するマイナンバー法等改正案が衆院で可決した。任意のはずのマイナンバーカード取得を事実上強制するもので、健康保険証交付は現在は保険者の義務であるのに、国民の申請がなければ交付されず無保険状態に陥る危険をもたらす大問題などが山積しているが、わずか13時間の審議で上記四党が賛成した。折しも、住民票の写しをコンビニで受け取れるサービスで他人の文書が交付されたり、マイナ保険証では別人の医療情報が閲覧された。これらのトラブルに対して、政府は責任逃れに終始し、マイナンバー制度への信頼は揺らいでいる。マイナンバーカードの取得を日程ありきで強引に進める姿勢を改め、マイナ保険証やマイナポータルの運用は停止するべきだ。
同日には、原発の運転期間を原則40年から60年を超えて運転可能にすることに加え、原発推進と規制の機関を同じ経産省所管に移す法案も上記四党の賛成で衆院で可決した。
5月9日には国内の不採算の軍需産業を国が買い取り、武器輸出に助成する防衛産業支援法案が衆院で可決、前述の四党に加え立民も賛成した。同日、極端に低い日本の難民認定率を維持し、原則収容主義など非人道的な入管法改正案も衆院可決。
さらに、政府は5年間で43兆円もの防衛費増の財源を確保する法案の早期成立も狙っている。防衛力強化資金の枠組みを通じて、コロナ対策の積立金である国立病院機構や地域医療機能推進機構の積立金、中小企業向け無利子・無担保融資の基金まで流用となり断じて許されない。市民生活を支える基金を引きはがし、軍備を増強して、何を守るというのか。
これらの法案はわずかな審議時間しか確保されなかった。このような国会運営は民主主義を破壊する。国民主権、議会制民主主義の原点に立ち返った国会運営が必要である。