歯科医師が知っておきたい医科系疾患のポイント
大切な病理聴取―投薬内容と臨床検査について―(下)
歯科部員 三浦 正典
1月25日号に引きつづき、2019年10月19日(土)に開催した歯科医療と隣接医学研究会「歯科医師が知っておきたい医科系疾患のポイント 大切な病理聴取―投薬内容と臨床検査について―」の講演概要を掲載する。
5.アナフィラキシーショックへの対応について
歯科治療では、浸潤麻酔時の発生が多い。緊急キットに入れておくのは、アドレナリン一択。エピペンは、サイトで登録しe-ラーニングを受ければ歯科医師でも処方(購入)できる。症状が疑わしい場合は、躊躇なく投与すること。エピペンは、輸入品なので、高価で有効期限が短い(1年)という欠点がある。
テルモ(株)で、アドレナリンのプレフィルドシリンジ(PFS)が販売されており、これを代用することも可能である。こちらの方が、安価で有効期限も長い(3年)。
6.糖尿病(Diabetes mellitus)について
診断するには、空腹時血糖・ヘモグロビンA1c・経口ブドウ糖負荷試験・随時血糖があるが、糖尿病治療をしている患者は、自分のヘモグロビンA1cを把握している場合が多いので、それが目安となる。
※ヘモグロビンA1cの判断の仕方…6.5%以上が糖尿病
目標値に、30を足して体温に例えるとよい。理想は36度未満、36度台は良好、37度台は要注意、38度を超えたら不良。つまり、8%以上の場合は、歯科観血処置は禁忌である。
7.抗血栓療法施行患者の歯科治療における出血管理について
日本では、抜歯の際に抗血栓療法施行を中止・減量することが習慣化されていたが、それに伴う脳梗塞などの血栓症の報告もある。PT-INRが3.0以下であれば、適切な局所止血をおこなえば抗血栓療法継続下に抜歯をおこなうことは可能である。ただし、局所止血処置の困難な場合のある盲嚢掻爬や、歯肉剥離掻爬術などの歯周処置時の出血管理については、検討の必要性がある。
8.抗菌剤の適正使用
世界的に進行する耐性菌問題への取り組みとして、愛知学院大学歯学部附属病院では、術後感染予防のための抗菌剤投与は、次の3つ、1)サワシリン(アモキシリン)、2)ケフラール、3)ダラシン(クリンダマイシン)に限定している。
第三世代セフェム系抗生物質は、バイオアベイラビリティ(血中への移行濃度)が低いので使用しない(商品名:フロモックス、メイアクト、バナン、セフゾン、トミロン、セフテムなど)。
あなたの歯科診療所に、血圧計・酸素飽和度モニター・聴診器・緊急カート(非常時に使用できる)があるだろうか? 繰り返しとなるが、歯科治療に際して最終的な評価をして、治療法を決定するのは歯科医師である。
(おわり)