歯科医療と隣接医学研究会報告

歯科医師が知っておきたい医科疾患のポイント―呼吸器疾患患者の歯科治療上の留意点

歯科部員 田辺 芳孝

協会歯科部会は、2023年8月5日(土)に「歯科医療と隣接医学研究会」を開催した。今回は、愛知学院大学歯学部顎顔面外科学講座准教授の宮地斉氏を講師に、「歯科医師が知っておきたい医科疾患のポイント 呼吸器疾患の歯科治療上の留意点」のテーマで、呼吸器疾患5項目について講演を行った。概要を歯科部員の田辺芳孝氏がまとめたので、掲載する。

Ⅰ.呼吸器系の加齢変化

①肺弾性収縮力の低下による残気量の増加。
②胸壁の硬化による肺活量の減少。
③横隔膜筋力の低下。

Ⅱ.気管支喘息

 気管支の慢性的な炎症が原因で、発作的な咳や呼吸困難が起こる。気管支の壁が厚くなり、気管支内の直径が狭くなった結果、呼気時(息を吐く時)に「ヒューヒュー、ゼーゼー」と音がする。
①喘息患者への投薬
 酸性型NSAIDs(例:アスピリン、ロキソニン、ボルタレン)を成人喘息患者に投与すると、約10%の患者に喘息発作が誘発される。以前はアスピリン喘息と呼ばれた。塩基性NSAIDs(例:ソランタール)はアスピリン喘息にも使用可能と考えられる。しかし、鎮痛効果が弱い。
②NSAIDsとアセトアミノフェン(例:カロナール)
 アセトアミノフェンは、NSAIDsに分類されない。アセトアミノフェン含有製剤の添付文書の禁忌欄には「アスピリン喘息またはその既往症のある患者」への投与禁忌と記載されているが、段階的に禁忌の項から解除される見込みである。

Ⅲ.慢性閉塞性肺疾患(COPD)

たばこ煙を主とする有害物質を長期間吸入することによって生じる肺の炎症による病気。COPD患者などの慢性的に酸素不足になっている状態のものが高濃度酸素を吸うと、これらの機能が働かなくなり呼吸停止することがあり、注意する必要がある。
◆在宅酸素療法と歯科
 COPDなどの疾患で在宅酸素療法を受けている患者の歯科治療の注意点。歯科治療で火気を使用する場合、火気は患者から2m以上離れて用いること。また、アルコールの使用には十分な注意が必要である。

Ⅳ.結核

 結核菌は、飛沫核の吸入により飛沫感染する。感染しても発病(一次結核)するのはすごく一部である。しかし、結核菌が免疫力を上回る時は発症(初感染発病)する。
①IGRA
 結核の診断法として、これまではツベルクリン反応が用いられてきたが、BCG接種や非結核性抗酸菌症による影響を受けたり、結核菌に感染していなくても感染している場合と同様の反応が出てしまうという欠点がある。現在では、結核感染の診断法としてツベルクリン反応よりも診断能の高いIGRA(インターフェロン遊離試験)が推奨されている。
②結核の定期健康診断(結核健診)と歯科医療機関
 歯科医療機関は「感染症法で結核に係る健康診断の対象とされている施設」に指定されているので、従業員は結核健診を受ける義務がある。

Ⅴ.肺炎

 気道を通して侵入した細菌やウイルスなどの病原体が肺内で増殖し、炎症が引き起こされた状態。
①誤嚥性肺炎
 嚥下機能障害のために唾液や食物、あるいは胃液などと一緒に細菌を気道に誤って吸引することにより発症。
②誤嚥性肺炎と死亡率
 肺炎(5.1%)と誤嚥性肺炎(3.4%)の死亡率の合計は8.5%となり、死亡原因の第4位となる。
 肺炎の92%が65歳以上の老人である。要介護老人では肺炎が最大の死因で、老人性肺炎の80%は誤嚥性肺炎である。

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