歯科医療と隣接医学研究会報告

歯科医師が知っておきたい医科疾患のポイント
循環器疾患患者の歯科治療上の留意点
歯科部員 田辺 芳孝

 協会歯科部会は、2021年10月9日(土)に「歯科医療と隣接医学研究会」を開催した。今回は、愛知学院大学歯学部顎顔面外科学講座准教授の宮地斉氏を講師に、「歯科医師が知っておきたい医科疾患のポイント 循環器疾患患者の歯科治療上の留意点」のテーマで行われた。
講演の概要を、歯科部員の田辺芳孝氏がまとめたので掲載する。

Ⅰ高血圧

(1)正常血圧は診察室血圧で120/80以下である。血圧が上昇するに従い、正常高値血圧、高値血圧、Ⅰ~Ⅲ度高血圧と分類される。

(2)歯科治療上の留意点
①麻酔の前に必ず血圧測定を行い、可能なら術中の血圧、脈拍、動脈血酸素飽和度を測定する。
②降圧剤(カルシウム拮抗薬)による歯肉肥大がみられる場合は歯周病の治療を行った上で、歯肉肥大が続くなら、医科に対診し、他の系統の薬剤への変更を依頼する。

Ⅱ心疾患

(1)不整脈 不整脈とは心臓の刺激伝導系に機能障害が生じ、脈が乱れる現象のこと。安静時でも1分間当たり100回以上の脈拍数となる頻脈性不整脈ではアブレーション治療の対象となる。逆に脈拍数が1分間に50回以下となる徐脈性不整脈ではペースメーカーの装着の対象となる。ペースメーカー埋め込み患者に対してMRI検査は禁忌である。

(2)虚血性心疾患

 狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は冠動脈の狭窄や閉塞によって心臓の筋肉への血液の供給が不足し、胸痛などの症状をきたす疾患である。治療法のひとつとしてステント留置をした場合は、血栓予防薬(抗血小板剤)を服用する必要がある。

(3)NYHA心機能分類と歯科治療

Ⅰ度:通常の歯科治療は可能。ベーシックモニター(血圧、脈拍の測定)があれば、望ましい。
Ⅱ度:歯科治療の時間はできるだけ短時間とする。アドバンスモニター(血圧、脈拍、心電図、動脈血酸素飽和度の測定)があるのが望ましい。
Ⅲ度:歯科治療はできるだけ応急処置に留める。アドバンスモニターが必要。
Ⅳ度:通常、歯科治療の適応ではない。

(4)血管収縮薬とNYHA心機能分類

Ⅰ・Ⅱ度:エピネフリン 40μg以内、歯科用カートリッジ約2本以内
フェリプレッシン0.108IU以内 歯科用カートリッジ約2本以内
Ⅲ度:エピネフリン 20μg以内、歯科用カートリッジ約1本以内
フェリプレッシン0.054IU以内 歯科用カートリッジ約1本以内

(5)感染性心内膜炎の高リスク症例において、心内膜炎防止の為に抗菌剤の予防投与が必要な歯科処置

(*感染性心内膜炎の起因菌のひとつにレンサ球菌が含まれる)
①抜歯、歯周外科手術、スケーリング、ルートプレーニング、インプラント植立、歯牙再植、歯根端切除術、骨膜下局所麻酔注射
②推奨抗菌薬としては、AMPC(例:サワシリン)、CVA/AMPC(例:オーグメンチン)、β-ラクタム系にアレルギーがある場合はCLDM(例:ダラシン)やCAM(例:クラリス)、AZM(例:アジスロマイシン)
③抗菌剤は手術1時間前から服用

(6)抗血栓療法施行患者の歯科治療における出血管理

①2004年日本の循環器学会から抜歯時の対応として血栓薬の内服継続下での施行が推奨された。
②抜歯に際しワルファリンを中断すると約1%に重篤な脳梗塞を発症し、死亡例も報告されている。
③脳梗塞患者が再発予防に服用しているアスピリンを中断すると脳梗塞発症率が3.4倍になるとされている。
④ワルファリンは、PT―INR(プロトロンビン時間国際標準比)が3.0以下であれば、適切な局所止血処置を行えば、抗血栓療法継続下に抜歯を行うことは可能である。ただし、局所止血処置の困難な場合の歯科処置については検討の必要がある。
⑤ワルファリン服用患者においては、セファム系、ペニシリン系の多くの抗菌薬のPT―INR値を上昇させ、易出血性となるので、抗菌薬の予防投与は1回のみが望ましい(長期投与は避ける)。
⑥抗血小板薬のチカグレロル(プリリンタ)は、アゾール系抗真菌薬、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンなど)は、使用禁忌。
(おわり)

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