歯科医療と隣接医学研究会報告

歯科医師が知っておきたい医科疾患のポイント
糖尿病患者の歯科治療上の留意点

歯科部員 田辺 芳孝

協会歯科部会は、2024年8月24日(土)に「歯科医療と隣接医学研究会」を開催した。今回は、愛知学院大学歯学部口腔顎顔面外科学講座准教授の宮地斉氏を講師に、「歯科医師が知っておきたい医科疾患のポイント 糖尿病患者の歯科治療上の留意点」のテーマについて講演を行った。
診療報酬改定により、糖尿病患者に対するSPTの歯周病ハイリスク患者加算(Pリスク)が新設され、定期的に研修会に参加して知識の習得に努めることが求められることと、医科の生活習慣病管理料に歯科受診を促す内容が追加されていることをふまえ、糖尿病患者の歯科治療をテーマに企画した。
概要を歯科部員の田辺芳孝氏がまとめたので、掲載する。

令和元年の「国民健康・栄養調査」によると、日本での糖尿病有病者の割合は、男性で19.7%、女性で10.8%と報告されていて、糖尿病患者の歯科治療は日常的と考えられる。
主として糖尿病患者と歯科についてまとめたので報告する。

Ⅰ.糖尿病と歯周病の関係

1.糖尿病の慢性合併症のひとつである細小血管障害や歯周結合組織の代謝異常などの為に糖尿病患者は歯周病に罹患しやすく、重症化しやすい。
2.血糖コントロール不良の糖尿病は歯周病を悪化させる。
3.歯周病の増悪で炎症性サイトカインであるTNF-αが増えインスリンの分泌を抑制し、糖尿病を引き起こすと考えられる。
2型糖尿病患者において、歯周治療による炎症の改善はTNF-αの分泌を減少させ、血糖コントロールの改善に有効と考えられている。

Ⅱ.低血糖時の対処法

低血糖の症状は、動悸と冷や汗が多い。しかし、症状は多様で気付かない症状が少なくない。低血糖で意識がある場合は、砂糖10gまたはブドウ糖を含むジュース150~200mlを与える。

Ⅲ.糖尿病患者と歯科の外科処置

HbA1cの値が7.0%台で、かつ歯周治療、消炎処置を行った上であれば歯科の外科処置は可能と考えられる。ただし、外科処置の1日前から、通常量の抗菌剤の投与が望ましい。
Ⅳ.糖尿病患者に対する局所麻酔薬のエピネフリン使用
エピネフリンにはインスリン分泌を抑制する作用がある。
平成29年の薬剤添付文書から、糖尿病患者へのエピネフリンの使用の「原則禁忌」が廃止され、「治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しない。症状が悪化する恐れがある。」と記載されている。
十分な除痛ができていない場合、不安や疼痛によって体の中で産生されるエピネフリン(内因性カテコラミン)の方が麻酔薬に含まれるエピネフリンの数百倍の量になる。
エピネフリンを含んだ歯科用麻酔カートリッジ使用は注意深く行えば問題ない。

Ⅴ.抜歯の術後感染予防の為の推奨される抗菌剤

1.サワシリン(アモキシシリン)
ワルファリンの作用が増強する恐れがある。
避妊薬の効果が減弱する可能性がある。
2.ケフラール(セファクロル)
持続性顆粒と胃腸薬の同時服用は避ける。ただし、カプセルは問題ない。
3.ダラシン(クリンダイマイシン)

Ⅵ.抜歯後の感染予防に推奨しない第3世代セフェム系抗生物質における5つの理由

1.バイオアベイラビリティが低い。
2.殺す菌が中途半端。
3.偽膜性腸炎を起こしやすい。
4.小児では重篤な低カルチニン血症、低血糖のリスクがある。
5.耐性菌が増え、本当に必要な時の効果が減じてしまう。
バイオアベイラビリティとは、投与された薬が全身の血中にどれだけ到達・作用するかの指標であり、これが低いことは消化管吸収が悪く、体中に行き渡りづらい。すなわち、感染症に効果があまりないことを意味する。

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