「血液疾患患者の歯科治療」
歯科学術委員会はシリーズ研究会「有病者のリスク管理」を「血液疾患患者の歯科治療」のテーマに開催した。講師は宮村耕一氏(名古屋第一赤十字病院)。
歯科学術副委員長田知正氏の報告を以下に掲載する。
講演は最新の骨髄移植治療の話題(臍帯血移植やミニ移植)を交えながら事前質問に答える形式で行われました。
質問(1):白血病、貧血、血友病患者の特徴的な口腔内所見はありますか。
白血病性歯肉炎では、歯肉が赤く変色して出血しやすくなり、白血病のために血液が固まりにくいので数分以上血が止まらないことがあります。白血病性歯肉炎の人は、出血を防ぐために歯磨きをやめて、ガーゼや脱脂綿で歯と歯肉の汚れをそっとふき取るようにします。クロルヘキシジンうがい薬は、プラークがたまるのを抑えて口内炎を予防する効果があります。貧血の患者では、口腔粘膜は貧血のために、粘膜の色が白っぽくなっています。口腔内所見から血液疾患が疑われ口腔外科から血液内科に紹介されたケースは昨年度三件ありました。
質問(2):白血病等の歯科観血的処置について注意する点は。
好中球が1,000以上あれば抜歯可能です。好中球が500~1,000であれば入院して抗生剤点滴投与で対応します。好中球が500以下では感染症になりやすく、抗生剤が効きにくいので抜歯は望ましくありません。
質問(3):白血病寛解期、骨髄移植後の患者の歯科治療は。
開業歯科医に紹介、治療してもらっています。
質問(4):特発性血小板減少性紫斑病患者に対するステロイド投与について
特発性血小板減少性紫斑病は血小板に対する自己抗体ができる病気です。治療法の柱のひとつにステロイド投与があります。プレドニン1mg/kg(最近は0.5g/kg)をまず4週間使用し、それから減量します。投与後20週で、2.5mg~5mg程度になります。ステロイド投与が長期になると易感染性となり、副腎機能が低下するので歯科での抜歯は注意が必要です。また抜歯に際してはステロイドカバー(ステロイド剤の増量)について内科医師と連絡を取って下さい。
質問(5):血小板がどれくらいあれば、抜歯してよいでしょうか。
血小板の正常値は13万~30万/μLです。DICが無いという条件で、5万以上なら心配はいりません。2~5万では、要注意です。事前の血液検査や長時間の圧迫止血が必要です。2万以下では血小板輸血後となります。鎮痛剤は血小板機能を抑制する薬剤(アスピリン、インドメサシンなど)の服用は原則的に禁忌ですが、痛みが強い場合ではメフェナム酸、ロキソプロフェンなどを頓用で使用しても構いません。
質問(6):成人T細胞白血病(ATL)の注意点は。
ATLは、病因ウイルスとしてHTLV-1が原因であるといわれています。血球成分から感染し、血漿からは感染しません。大量の血液に暴露しなければ感染しませんが歯科治療時の対応はHIVやHBVに準じて下さい。
質疑応答では病院歯科の先生から病院内での白血病の口腔ケアやその評価についての質問、相談など活発に行われました。