有病者のリスク管理「糖尿病・腎疾患・透析患者の歯科治療」

「糖尿病・腎疾患・透析患者の歯科治療」

 歯科学術委員会はシリーズ研究会「有病者のリスク管理」を「糖尿病、腎疾患、透析患者の歯科治療の留意点」をテーマに開催した。講師は三木隆治氏。
歯科学術委員柴田幸一郎氏の報告を以下に掲載する。

〔透析患者の概要と問題点〕

 現在約二十六万人が透析治療を受けており、日本人の〇・二%が透析患者といわれている。患者の高齢化がすすみ平均年齢は六十四歳である。糖尿病の患者が四三%と合併症をもつ患者が増えている。
 歯科治療との関係では、次のような問題があげられる。(1)歯科受診の際「透析患者」と言った途端診療を拒否される、(2)唾液分泌量減少の結果、自浄能力が低下しう蝕や歯周病の罹患率の上昇や味覚異常を引き起こす、(3)口腔粘膜の乾燥や口内炎、舌乳頭の萎縮が発現する。
〔糖尿病性腎不全について〕

 糖尿病性腎不全の注意点および指標を述べる。
 HbA1C(赤血球の一部に糖が結合したもの)の基準値は四・五~五・四%。これを六・五以下に抑えるのが目安であり七以上は合併症に注意する。
 透析の原因が慢性糸球体腎炎の場合は比較的扱いやすいが、糖尿病性腎症からの透析は糖尿病末期の状態のため注意深い対処が必要で区別して考える。
 その中でも、(1)中年から発症し、(2)治療歴が長く、(3)HbA1Cがたえず七~一〇以上と高値、(4)インスリンでないとコントロールできない、(5)降圧剤を服用しても高血圧が持続している、(6)足壊疽、心筋梗塞、脳梗塞合併などの動脈硬化による疾病をもつというような患者は要注意である。

〔糖尿病合併の透析患者の特徴〕

 糖尿病透析患者が受診した際には、次のような特徴があることを考慮する。
 (1)痛み、緊張、ストレスに弱い、(2)高血圧、血圧低下、ショックが起こる、(3)易感染性(左歯痛から1週間で敗血症による死亡例もあり)、(4)低血糖・高血糖発作が起こりやすい、(5)動脈硬化症、足壊疽を起こしやすい。

〔抜歯の際のポイント〕

 抜歯等、外科的処置を行う際の注意点は次のとおり。
 (1)透析の翌日に透析医の了解下で行う、(2)ワーファリンや抗凝固剤の使用を確かめる、(3)術後出血は局所止血剤を使用し粘膜を縫合する、(4)止血床による圧迫止血も効果的、(5)抗生剤の術前投与による感染予防を行う。口腔内感染症起炎菌の八割はグラム陽性球菌でABPCに感受性がある。細菌性心内膜炎予防に一番効果的なのはサワシリン服用後六十一~百二十分の間の抜歯。

〔薬品使用時の注意点〕

 腎排泄性薬剤(H2ブロッカー、抗ウイルス剤等)は避ける。また、低蛋白血症による薬の効きすぎや、多剤服用のため相互作用を起こす危険性に留意し透析医との連携を密にとる。
 さらに具体的には、(1)鎮痛剤は空腹時を避ける、(2)ロキソニンは通常の1/2でよい、(3)バファリンは溶血性に注意、(4)アセトアミノフェンは透析性抜群によい、(5)トランサミン、ビタミンK1等は医師と相談後に投薬する。

〔ワーファリンについて〕

 まず服用の有無を確認する。人工血管のシャント閉塞予防または心房細動患者の脳梗塞予防に使用されている場合は二日前からの中止が可能。人工心臓弁への凝血予防が目的の場合や、抜歯で重大な出血が危惧される場合は透析医と相談する。
 ワーファリン調節の目安にはINRの数値を用いる。2.0以下であれば継続のままで抜歯可能と考える(2.0以上の場合は透析医と相談)。

〔抗生物質について〕

 肝胆排泄性薬剤は通常量但し酸性で効果を発現するため制酸剤は不可。ABPC、AMPCはともに透析されやすい。マクロライド、テトラサイクリンは通常量でOK。抗菌剤内服は慎重に行う。相互作用では、セフェム+SU剤+酸性NSAIDsによる低血糖や、ニューキノロン+NSAIDsによる痙攣に留意する。

透析医との連携のために問い合わせ状を作っておくと良い。

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