2022年7月7日

歯科材料高騰ー安定供給と患者負担軽減の仕組みを

(愛知県保険医新聞2022年7月5日号)

ロシアのウクライナ軍事侵攻に起因したエネルギー価格の高騰により、世界経済は大幅なインフレに見舞われている。世界的には、未だコロナパンデミックが終息していない中、食料や商品における供給網の混乱は解消せず、需要に見合った供給ができていない。日本においても家電をはじめ様々な商品の供給に影響が出ている。
歯科界でも、供給不足には至っていないが、「原材料価格」や「輸送費」の上昇を理由として、様々な器材の値上げが始まっている。急激に進む円安によって、輸入歯科器材の価格はさらに値上げされることが予想される。歯科用材料を含む診療報酬は、経済情勢が急激に変化した場合への対応が想定されていないため、日々の診療において材料価格の高騰が脆弱な歯科医院経営をさらに圧迫することは想像に難くない。
5月18日の中医協総会で7月随時改定が決定され、金パラ告示価格は3,715円になった。4月改定後、5月にはウクライナ情勢を背景とした価格急騰への対応としての緊急改定が、多くの支払側委員が反対したにもかかわらず実施されることとなった。これは長年放置されてきた金パラ「逆ざや」解消のため、協会・保団連が取り組んだ会員署名や国会議員を通じて厚労省交渉を行うなど、継続的な運動の成果である。国の財政危機解決のためだと、歯科医療の現場に「逆ざや」を押し付けるなどあってはならないことである。
しかし、材料価格の急激な引き上げは患者負担の増大に繋がることを忘れてはならない。昨年実施した「歯科医療改善のための市民アンケート2021」では、「安心して歯科医療を受けられるよう希望すること」の問いに、「すべての治療を保険で受けられるようにしてほしい」が最も多く、次いで「窓口負担を軽くしてほしい」との回答が多い。とりわけ3割負担の患者には、経済的負担が「重い」と感じている人が多い。家計が苦しい中、高い保険料を払っているのに、いざ治療を受けるときにはお金の心配をしないといけないのでは本末転倒である。
今般の金パラ高騰への対応は、政府の物価高騰対策にも位置付けられている。急速なインフレが進む中、国民の生活と健康を守るためには、国の責任で歯科材料を安定的に供給できる仕組みをつくるとともに、患者負担に対する手当ても含めて、現場の医療機関への経済的支援策が必要である。

ページ
トップ