愛知県保険医協会は、これまで任意とされていたオンライン資格確認システムの導入について、来年4月から原則「義務化」とする政府方針に対し、会員の意識や要望を把握し今後の運動につなげるために、「オンライン資格確認に関するアンケート」を実施した。8月8日に開業医会員約5100人にFAXで協力を呼びかけ、8月26日までに547人の会員から回答があった。協力率は10.7%。
その内訳は、医科診療所が68.0%、歯科診療所が29.7%、病院が2.4%で、50歳以上の回答が8割を占めた。請求方法については、紙請求は7.9%、医科は79.4%がオンライン請求、歯科は67.1%が電子媒体請求であり、この割合は厚労省資料と概ね一致する。
導入「義務化」に反対7割
オンライン資格確認システムの導入「義務化」の是非について尋ねたところ、「反対」が71.8%、「どちらともいえない」が22.5%で、「賛成」は5.7%にとどまった。「廃業する医療機関があるなら、理不尽極まりない」という声や、マイナンバーカードで受診する患者がいないことやシステムエラーが多いことなども含め「時期尚早である」との意見、設備投資やランニングコスト、セキュリティ対策など政府から負担を押しつけられることに不満の声が多数寄せられた。
オンライン請求実施していても「義務化」には反対約7割
「義務化」反対の392人のうち、オンライン請求を行っている会員は224人であり、66.9%を占めた。
「廃業する医療機関があるなら、理不尽極まりない」「有効な保険証でもデータの入力が不十分で無効とされることが多い」「資格申込・変更申請しても1~2週間かかる」「設備投資やランニングコスト、セキュリティ対策などの負担の押しつけに不満」という声が多数寄せられた。「義務化」賛成については、「とても便利になった」「業務の効率化ができた」「なりすまし受診の対策によい」という意見の一方、設備投資やランニングコスト等の負担には不満とするコメントも散見された。
4割が「導入しない」「導入できない」
オンライン資格確認の導入状況について尋ねたところ、215人が「導入しない」(28.6%)又は「導入できない」(10.8%)と回答した。オンライン資格確認に対する懸念や考え(複数回答)では、「必要性を感じない」がもっとも多く62.7%で343人が回答した。「マイナンバーカード保険証の紛失や漏えいの心配」が53.6%、「ランニングコストが負担」が43.1%と続く。マイナンバーカードの保険証利用に対する疑問や不信感を持つ意見、医療機関の経営状況やスタッフの体制などやむを得ない理由で導入できない実態が明らかとなった。「コロナ対応でそれどころではない」との声も多数寄せられた。
68人が「義務化されると廃業せざるを得ない」と回答。そのうち60歳代以上が9割を占め、約半数がオンライン請求を行っている会員であった。「高齢で残り何年診療できるか分からないが、診療してほしいと願う患者さんが一人でもいる限り診療をしたい」と切実な意見が寄せられている。
6割がまだ準備を始めていない
アンケートでは、8月26日時点で約6割が準備を始めていない。「導入しない」「導入できない」と回答した215人について、請求方法ごとの内訳は、オンライン請求99人(29.8%)、電子媒体請求80人(47.3%)、レセコン紙請求18人(73.9%)、手書き請求19人(95.0%)であった。また年齢別では70歳代以上の64.6%、60歳代の42.4%が「導入しない」「導入できない」と回答した。
なお、オンライン資格確認を運用開始している人は74人(13.6%)だった。
「必要性を感じない」が最多 導入済みの会員からも同様の声
オンライン資格確認に対する懸念や考えをきいた項目では、343人(62.7%)が「必要性を感じない」と回答しており、この項目では最も多かった(複数回答・グラフ参照)。システム導入を準備又は運用開始している234人のうち97人が「必要性を感じない」と回答している。システム導入していても約4割が必要性を感じてない。「マイナンバーカードで受診する患者がいない」「オンライン資格確認のメリットがない」「資格喪失後の受診は保険者が業務を全うすれば防止できる」や、「強制するなら国が無償で設置すべきだ」との意見が多かった。
「セキュリティ対策」対応できない
次に多いのは「マイナンバーカード保険証の紛失や漏えいの心配」で53.6%が回答している。この中には、運用開始している36人が含まれている。運用開始している医療機関の懸念項目としては一番回答が多かった。運用開始後、セキュリティ対策への懸念が大きくなっていることを示している。
「オンラインシステムは信用できない」と回答したのは109人にのぼる。これには「通信障害や停電が発生した時、災害時などでオンラインがダウンしたら資格確認ができず診療がストップしてしまう」「時々システムダウンしている」「導入したらレセコンが不調になって、事実上運用できない」「サイバー攻撃への対策ができるのか不安」などコメントがあった。
マイナンバーカードの保険証利用に対して疑問や不信感を持つ意見が多く寄せられており、オンライン資格確認については「従来の保険証による資格確認は問題ない」とする回答も26.3%あった。
医療機関に一方的に負担を押しつける
「導入しない」「導入できない」「導入を検討している」と回答した会員(311人)からは、「ランニングコストが負担」(147人)、「新たな設備投資はできない」(125人)、「デジタル化に対応できる人員がいない」(72人)、「オンライン請求をしていないので導入できない」(63人)という懸念が寄せられた。また「機器を置くスペースがない」「数年後に閉院するので導入しても採算があわない」などコメントがあり、医療機関の経営状況やスタッフ体制など、やむを得ない理由で導入できない医療機関が多いことが明らかになった。また、「コロナ対応でそれどころではない」との声も多数寄せられた。
コストの面では、「補助金につられて申し込んだが、レセコンが対応していないためさらに費用がかかった」「利用者やメリットないのに、今後膨大な保守料などがとられる」などのコメントもあった。業者からシステム導入にあわせて電子カルテ導入の提案があったり、レセコンの改修も含め200万円程度の見積の提示があったなど、協会に相談が寄せられている。業者との契約締結や工事催促などには慎重な対応と見極めが必要だ。
保険証廃止反対8割
保険証廃止の「反対」は78.8%、「賛成」は3.9%、「どちらともいえない」は17.3%だった。反対の割合は導入「義務化」反対より多い。
「保険証の画像をレセコンに取り込んでいるため、保険証がなくなると診療に支障をきたす」「高齢者が多いので、マイナンバーカードだと受付に手間がかかるし、紛失が心配」「今更保険証がない診療を患者に理解させるのが困難」「マイナンバーカードの電子証明書に有効期限があるため、更新せず受診した場合に窓口が大混乱する。保険証の方が患者さんにとっても簡便だ」「災害時の停電やシステムダウンの時は資格確認ができないので、保険証が必要」などのコメントが寄せられている。また、「患者にマイナンバーカードを持ち歩かせることに反対」「マイナンバーカードの普及のために、保険証を廃止するのは本末転倒だ」の意見もあった。
地域医療を支えるすべての医療機関を守れ
「義務化」を強行することで医療現場の混乱が増すことは必至だ。中医協は、原則「義務化」することについて療養担当規則の改定案を附帯意見を付けて承認したが、厚労省は9月5日に省令改正をした。附帯意見では「年末頃の導入状況を調査して、やむを得ない場合への必要な対応について、その期限も含め検討する」とされていたにもかかわらず、様々な問題が山積しているこの時点で告示するという政府の対応は、力ずくで推し進める態度であまりに乱暴だ。保険医協会は9月9日に抗議声明を発表。首相、厚生労働・総務・デジタル各大臣、愛知選出国会議員宛に提出した。
地域医療を支えるすべての医療機関を守るため、「義務化」撤回が必要だ。導入は各医療機関の実情によって任意とすべきである。少なくとも、実施時期の延長や「義務化」の免除対象の拡大など抜本的な見直しが求められる。
オンライン資格確認・保険証廃止に関する要望、政府方針への意見を求めたところ、136件のコメントが寄せられた。回答者の4人に1人が意見や要望を記入した。政府・厚労省の押しつけに対する怒りや戸惑いの声が多く、この問題への関心が高いことを証明している。
アンケート結果の詳細や寄せられた意見は、以下のリンクから。