(愛知保険医新聞2024年11月5日号)
帝国データバンクの全国企業倒産集計によると、今年1~9月までの医療機関の倒産件数は50件で、既に2023年の年間倒産件数の41件を超えた。診療所と歯科医院の倒産件数増加が顕著で、2009年の52件を大きく上回り過去最多となることが確実視されている。
物価上昇率が3.8%と42年ぶりに高水準となるなか、6月実施の「診療報酬改定の基本方針」では、「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性(中略)を踏まえた対応」、「医療DX(中略)の推進等による質の高い医療の充実」等が位置づけられた。しかし、診療報酬本体はプラス0.88%にとどまった。しかも生活習慣病管理料等の再編による-0.25%を加味したうえで、その大部分が賃上げ対応(0.89%)に振り向けられた。しかし、新設されたベースアップ評価料は届出等が複雑で算定できない医療機関が多く、物価上昇に対応する改定には程遠い。
協会が実施した物価高騰に関する影響調査では、今回の診療報酬改定後、72.7%が収入が下がったと回答し、88.6%の医療機関が光熱費・材料費・薬剤費・人件費等の経費を診療報酬改定で補填できていないと答えている。また医療DX推進のために、医療機関は収益増にはつながらないシステム導入や、維持費等の負担も強いられている。「ベースアップ評価料や医療DX推進体制整備加算等わずかな報酬を得るための手間や人件費はそれ以上に上がっている」が現場の声だ。
連続する実質マイナス改定や新型コロナの影響とともに、物価上昇と賃上げによる人材確保、医療DXの対応など、医院経営はさらに厳しさを増すばかりだ。帝国データバンクは「コロナ禍で減少した患者がアフターコロナで戻らず苦戦したり、経営者の高齢化や後継者難で事業継続が困難となったりする診療所と歯科医院は今後さらに増加していくとみられる」と分析する。
保険診療で経営する医療機関は、諸経費の高騰分を価格に転嫁することができない。医療DXを国策で推進するならばその費用は補助金等で国がすべて負担すべきである。抜本的には基本診療料による診療報酬の大幅引き上げが必要だが、当面の緊急措置として補助金等による支援策が必要である。国には地方創生臨時交付金等の大幅な増額と、自治体には医療機関向けの物価高騰対策支援金等の実施を求める。地域医療を支えるすべての医療機関を守れ!