歯科医療と隣接医学研究会報告

呼吸器疾患患者の歯科治療上の留意点(上)
歯科学術副委員長 三浦 正典



 協会歯科部会は、1月19日(土)に「歯科治療と隣接医学研究会」を開催した。今回は、愛知学院大学歯学部顎顔面外科学講座准教授の宮地斉氏を講師に、「呼吸器疾患患者の歯科治療上の留意点」のテーマで行われた。講演の概要を歯科学術副委員長の三浦正典氏がまとめたので、今号と3月15日号の2回に分けて掲載する。

 歯学教育モデル・コア・カリキュラムによると、学修目標のひとつとして、医科疾患合併患者の歯科治療時の注意を説明できるということがある。
 代表的医科疾患・病態の例として、呼吸器系:呼吸不全、閉塞性肺疾患(気管支喘息を含む)、拘束性肺疾患、誤嚥性肺炎がある。今回は、呼吸器疾患として次の項目を解説したい。
1.呼吸器系の加齢変化 2.気管支喘息 3.慢性閉塞性肺疾患(COPD)
4.結核 5.肺炎


1.呼吸器系の加齢変化


 呼吸器系も、他の器官と同様に加齢によって最大機能が徐々に低下していく。肺弾性収縮力の低下により残気量が増加する。そこから、換気機能の低下、すなわち肺コンプライアンスが低下する。胸壁が硬くなり、胸郭コンプライアンスが低下し 肺活量が減少する。横隔膜筋力も低下する。解剖学的に右の気管が太いので、誤嚥では右の肺がダメージを受けやすい。
※肺コンプライアンス(lung compliance)とは…「肺の単位圧力変化あたりの容量変化」と定義される。簡単にいうと、「肺の膨らみやすさ」のことを指す。縮む力は肺線維の弾性線維の力と等しい。縮むのを阻む力は、肺胞の表面活性物質(サーファクタント)と等しい。これらが、肺コンプライアンスを決定する。

2.気管支喘息


 気管支喘息は、気管支の慢性的な炎症で、発作的な咳や呼吸困難が起こる病気である。症状としては、「ゼーゼー」、「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜんめい)が聞こえる呼吸や激しい咳をし、苦しそうな呼吸音を出す。気管支喘息の主な原因は、アレルゲン(ダニ、ハウスダスト、食品)、気道感染、冷気、ストレスなどである。
 成人気管支喘息の診断は、①発作性の呼吸困難、喘鳴、咳、胸の苦しさなどの症状の反復、②可逆性の気流制限、③他の心肺疾患などの除外、による。 過去の救急外来受診歴や、喘息治療薬による症状の改善は診断の参考になる。喘鳴や呼吸困難を認めず、診断に苦慮する場合は、気道過敏性試験を依頼するか、吸入ステロイド薬やβ2刺激薬による治療的診断を考慮する。
※喘息患者への投薬…酸性NSAIDs投与により気道拡張因子であるPG(プロスタグランジン)の合成が阻害され、強力な気管支平滑筋収縮作用を持つロイコトリエンの分泌促進により、気道収縮が起こる。このことで喘息が誘発されるので、喘息のある患者には塩基性 NSAIDsを使用する。塩基性NSAIDsはPG合成阻害作用がほとんどないことから、アスピリン喘息にも使用可能と考えられる。塩基性NSAIDsは、ソランタール、リヒデン(商品名)などがある。あまり普及しておらず、効き目が弱い。
※NSAIDs過敏症について…成人喘息患者の約10%にNSAIDsの内服によって喘息発作が誘発される。以前はアスピリン喘息と呼ばれた。アスピリン以外のNSAIDsでも誘発され、NSAIDs過敏症と呼ばれる。喘息型と蕁麻疹型に大別され、服用後30分から数時間以内に発症する。アレルギーではなく、アラキドン酸カスケードのリポキシゲナーゼ経路活性によるロイコトリエン異常産生によるものと考えられている。COX-1阻害作用によって症状が誘発される。対処法として、Coxibsや アセトアミノフェンが使用される。アセトアミノフェンは、カロナール(商品名)が有名で、鎮痛剤として常備しておくとよい。ただし、成人で、500mg1錠でなければ効果がない。(つづく)

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