歯科医療と隣接医学研究会報告

歯科医師が知っておきたい医科疾患のポイント
―病歴聴取の重要性と困難性について―
歯科学術副委員長 荒尾 和子


 協会歯科学術委員会は、10月29日(水)に「歯科医療と隣接医学研究会」を開催した。今回は、愛知学院大学歯学部顎顔面外科学講座准教授の宮地斉氏を講師に「歯科医師が知っておきたい医科疾患のポイント―病歴聴取の重要性と困難性について―」のテーマで行われた。講演の概要を歯科学術副委員長の荒尾和子氏がまとめたので報告する。

 今回、愛知学院大学歯学部顎顔面外科学講座准教授の宮地斉先生に、治療の入り口である問診の重要性と困難性について実際の症例も供覧し、ご講演頂きました。

歯科と全身状態


 歯科治療を受けるにあたり、なぜ全身状態を話す必要があるのかわからない患者さんや初診時既往症なしと答えたにもかかわらず、抜歯直前に抗凝固剤やBP製剤を服用していることを言われる患者さんもみえる。
 内服薬をすべて正確に把握する事が重要で、この為に、お薬手帳を活用すると良い。

医科への対診


 医科の主治医の先生が、抜歯の侵襲程度を把握出来ない事があり、『抜歯は可能です』との回答があった場合でも、その結果を負うのは歯科医師なので、処置前にもう一度病態、内服薬を確認して下さい。
 〔抜歯の禁忌〕絶対禁忌は非常に少なくなっているが、以下のケースでは慎重な対応が望まれる。
 (1)全身的要因:循環器障害。血液疾患。妊娠。肝疾患。腎疾患。
 (2)局所的要因:抜歯部位の炎症。悪性腫瘍の上にある歯。

高齢者の病態及び疾患の特徴を把握しているか?


 高齢者は、以下の特徴がある。
 (1)一人で多くの疾患を持っている、(2)個人差が大きい、(3)症状が非定形的、(4)脱水症状による電解質異常を起こしやすい、(5)薬剤に対する反応が成人と異なる、(6)生体防御機力の低下、(7)老年病、老年症候群の発生頻度が高くなる、(8)筋力、活力が衰える(フレイル)、(9)進行性、全身性の骨格筋量および筋骨格筋力低下が起こる(サルコペニア)。
 高齢に伴いフレイルやサルコペニアといった状態になり生活機能が低下する。

歯科治療時の全身管理


 治療直前に全身状態、不安度、治療の侵襲度、予定治療時間は、必要最小限のチェック項目である(表1)。  

 ベーシックモニター(※1)またはアドバンスモニター(※2)を必要に応じて活用する。
※1…血圧と脈拍を測定するモニター
※2…血圧脈拍に加え、心電図や動脈血酸素飽和度を測定するモニター

糖尿病の易感染性


 (1)高血糖により細菌繁殖の栄養が十分、(2)血小板障害による循環障害がある、(3)組織細胞の低栄養のため細胞性免疫力低下や好中球遊走能低下がおこる。

 〔糖尿病と診断するためには〕
・空腹時血糖(126mg/dl)以上
・HbA1c( NGSP値(※3))6.5%以上
・経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
75gのブドウ糖を飲み、2時間後の血糖200mg/dl以上、随時血糖200mg/dl以上
※3…2012年4月1日よりHbA1cの表記は国際標準値であるNGSP値使用となった。これまでのJDS値より0.4%高い。

抗血栓療法と歯科治療


 PT―INR(※4)が3.0以下であれば薬を継続して抜歯する。局所止血処置困難な盲のう掻爬や歯肉剥離掻爬術などの出血管理に検討の必要性がある。
※4…ワーファリンコントロール時に用いる。正常値は1。2~3にコントロールする事が多い。

血液透析


 慢性腎不全に於いて行われる腎代替療法。シャント手術が施行されている場合が多い。

肝硬変


 本人が気づいていないことがあるので、顔貌、顔色を観察する。

心疾患を有する患者さんの歯科治療


 しっかりした除痛目的であれば、フェリプレッシン含有のシタネストよりエピネフリン含有のキシロカインカートリッジを1、2本慎重投与し除痛したほうがよい(表2)。
 

あとがき


 当日配布された資料には関節リウマチや周術期口腔管理について等、多岐にわたっていましたが時間が足りず、すべての内容を聴くことはできませんでした。続きを拝聴する機会があればと存じます。

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