愛知保険医新聞2023年10月25日号掲載
みよし市 市原 透
コロナ禍収束も未だ見通せない中、多くの学会が現地開催を見送ってきた。ようやく昨年10月、久しぶりに開催されたJDDW(日本消化器関連学会週間)2022FUKUOKAに参加した。
以前は2万人を超える規模であったが、今回は参加者数6、7千人といったところでやや寂しい感は否めなかった。しかし、モーニングセッションからサテライトセミナーに至るまで朝から晩まで新しい知見が目白押しに企画され、古希を過ぎても知識欲未だ衰えない私にとっては大変楽しい学会であった。
今回は1993年の第1回大会から数えて30回の節目ということで、多くの来賓を招いて記念式典が開催された。山中伸弥先生、本庶佑先生というノーベル賞受賞者の記念講演の後、来賓の筆頭に今は亡き親王の妃殿下の御祝辞があった。これまで皇室関係者の肉声を聞くことがなく、貴重な機会と思い謹んで拝聴することにした。
「妃殿下のご登壇です。皆さん盛大なる拍手でお迎えしましょう」との司会の発声に続き、盛大な拍手で会場が満ち溢れた。ところが1分たっても、2分たっても一向にお姿が見えない。3分が過ぎ、拍手をこのまま続けるべきか否かと迷い始めたころ、ようやく泰然として壇上にあがられた。
冒頭「日本を代表する5つの学会が同時に集うJDDW第30回記念大会の開催をお祝い申し上げる」との第一声が発せられた。次いで医療に携わる者への労いと励ましのお言葉の後、次のような苦言が続いた。
「殿下も自分もこれまでいろいろな病気にかかりました。ある時病床の私の前で主治医間の意見の相違と思われる議論がありました。こういったことは患者として大いに不安を感ずる場面です。また、近頃やたら『専門外』という言葉を口にする医師が多いように思います。専門化、細分化の流れはやむをえないところではありますが、患者は臓器ごとに別々に生きているわけではありません。一個の人間として診療にあたって欲しいと思います。そういう意味では様々な学会が集うJDDWのような総合医学会の果たす役割は極めて有意義かつ時宜を得たものでしょう」といった内容の趣旨であった。
主治医間の意見を異にする議論は患者の前では慎むこと、診療要請には誠実に応じ、専門外を口実に忌避してはならないこと、初療ののち適切に専門医に任せるなど、不安を感じている患者の視線に立った配慮が必要である。
医師は専門性に関わらず、まず総合診療医として患者に接する姿勢が必要であると改めて受け止めたところである。