勤務医の会 総会・記念講演会

愛知保険医新聞2025年4月25日号掲載

働き続けられる医療現場に
前田 佳子氏(公益社団法人日本女医会会長)

勤務医の会は、3月20日(木・祝)午後、ウインクあいちで第40回勤務医の会総会と記念講演会を開催した。
「働き続けられる医療現場に~医師の働き方改革の課題と医師の増員~」のテーマで前田佳子氏(公益社団法人日本女医会会長)が講演した。講演内容を紹介する。
(文責:編集部)

医師の働き方改革の問題点

2024年4月から始まった医師の働き方改革は、医師の長時間労働の是正と地域医療構想の実現にむけた趣旨で始まった。
一般的な時間外労働の上限は、1カ月45時間、1年360時間とされ、例外として1年720時間、複数月平均80時間以内となっている。しかし医業に従事する医師は適用外となっている。
医師の労働時間の上限はA水準で年960時間、B・C水準では1,860時間でこれは月に換算すると155時間となる。一般的な過労死ラインは、発症前1カ月に100時間を超える残業、あるいは発症前2~6カ月の平均残業時間が80時間を超える場合なので、医師は一般的な過労死ラインを超えた規制となっている。
また一般職では、週60時間以上の勤務をしている割合は男性17%、女性8%だが、常勤勤務医では男性41%、女性28%となっている。女性医師は一般職と比べても子育てをしながら働くには厳しく、出産後に常勤・専門医として復帰することが難しい。出産・子育てが女性医師のキャリア中断に繋がっている。
その他にも、労働時間か自己研鑽かの線引が曖昧で仕事と認められるのかはっきりせず、サービス残業が行われていることも問題だ。

医師は足りているのか

日本の医師数は、過去にも何度か抑制されてきた。これまで医師数が過剰になったことはなく、OECD加盟国平均が人口1,000人当たり3.6人に対し、日本は2.5人となっている。
人口1人当たりの国民医療費をみても、生涯医療費は70歳以降に51%かかっており、高齢化が進むにつれ医療が必要な人も増加する。人口が減少しても医師の需要が減らないことは明らかだ。
患者が適切に医療にアクセスできる、標準的な医療水準が維持できる、医師がやりがいを持って健康的に働き続けるためには、必要な医師数の確保が求められる。

性別に関係なく働き続けられる医療現場に

医師の働きやすい環境を実現するためには、マジョリティ特権を持つ男性医師の協力が不可欠だ。
女性の医学部受験生の点数を不正に減点していた問題の報道後、年々女性の医学部合格率が上がり、将来的に女性医師の割合は4割になるのではないかと思われる。しかし将来の女性医師が働き続けられるためには、意志決定の場に女性医師を増やし、環境を整える必要がある。
また、職場でのパワーハラスメントに悩む人も多い。ハラスメントを行う側に自覚がない、良かれと思ってやっているなど認識の違いで起こる問題だが、「女性活躍・ハラスメント規制法」ではパワハラ・セクハラ・マタハラを行ってはならないと明記されているのみで罰則規定がない。

大切なのは意識改革

医師の働き方改革では、長時間労働、過労死対策が重視されているが、性別に関係なく働き続けられる環境のためには労働時間の制限だけでなく、個人の能力や希望に沿ったキャリア形成、アンコンシャスバイアスの解消、ハラスメント対策が重要だ。組織のトップは常に意識改革を心がけ、当事者の要望に答えられるよう配慮を怠らないことが求められる。

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