障害者歯科診療の実際①(愛知保険医新聞2023年8月25日号)

~多様性と患者ニーズ~
歯科部員 小関 健司

長年障害者医療に地域で携わる清須市の小関健司氏に、障害者歯科診療の実際について執筆いただいた。3回にわたって掲載する。

現在、国民の4人に1人が高齢者となり、国民のうち障害者の区分に属する人口は、すでに964.7万人(身体障害者436.0万人、知的障害者109.4万人、精神障害者419.3万人、令和4年度・障害者白書、内閣府)に達し、全人口の7.6%が何らかの障害を有している。潜在化していた障害が早期診断などによる顕在化、療育手帳取得者の増加、高齢者の要介護認知症や身体障害者の増加など、様々な要因が考えられる。
ここでいう障害とは何か? それは物事の達成や進行の妨げとなること、または妨げとなる原因のことである。

障害分類の変遷

2011年に改正された障害者基本法では、障害者とは、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁(事物、制度、慣行、観念等)により、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者をいう」と定義されている。またWHOでは、障害を「身体の損傷、活動の制約、参加の制限が含まれる包括的なものとし、障害は複雑な現象であり、ある個人の肉体が持つ特徴と、その人が生きる社会の特徴とがもたらす相互作用の反映である」としている。いわば障害者は、その人が「生活すること」、「生きていくこと」に障害を持っている、ということである。


障害分類は、時代により変遷している。国際障害分類(ICIDH(図1)、1980、WHO)は、「障害」にクローズアップした分類法で、障害を前述の「心身」「能力」「社会参加」という三つのレベルに大別したが、それにより機能障害が能力格差の発生、ひいては障害者に社会的不利な状況が生じるという問題が起きた。


そこで再検討され、決議されたものが国際生活機能分類(ICF(図2)、2001、WHO)であり、障害をその人の「生活機能や周囲の環境などの因子」で分類された。現在はこれがスタンダードとなっている。
一般的に、障害者は目が見えない、耳が聞こえないなど、「不自由さ」が主に取り沙汰される。健常者も常に健常ではなく、思いもかけず障害を有し、それによって生ずる焦燥、不安、絶望、虚無などの身体と心の不自由、不整合は、リハビリテーションを含む医療により軽減されることは論を待たない。

障害者のニーズに応えるため

一方、現代社会は、数年前とは比べものにならないほど多様性が声高に叫ばれ、それに呼応するかのように障害者に内在していたニーズが表面化している。その裏では、相模原・津久井やまゆり園の痛ましい事件のように、障害者の生そのものがユニバーサルに捉えられないような特異ともいえる事例も発生し、社会の在り方そのものが「障害(=バリア)」を作り出しているともいえ、障害者をとりまく問題がますます複雑混迷化している。
医療では、患者側の需要が横断的に多岐にわたるようになり、対応する医療側も多様な病態に対して、障害の有無にかかわらず、全ての国民に対して質の高い医療が提供できるように、患者へ寄り添い、安全かつ安心できる治療にシフトしてきた。
歯科の界隈では、元来受け皿となってきた大学病院や病院歯科、地域の歯科医師会などが設立する歯科センターなどの高度専門医療機関で診療上スペシャルニーズを要する患者を担ってきたが、障害者人口の激増に伴い、慢性的に診療充実度の限界が多くみられるようになり、行政対応の飽和と相まって、障壁(=バリア)が高いまま、患者ニーズに十分に応えられないCASEも報告されている。このことからも、今後は一般歯科開業医でのさらなる対応の必要性が増していると思われる。
次回は、障害者の特性を踏まえた一般歯科開業医での歯科治療上の問題点を整理し、提示したい。

(つづく)

障害者歯科診療の実際②~障害者歯科の問題点~

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