これから開業を考えている勤務医の先生へ伝えたいこと

愛知保険医新聞2022年9月25日号掲載

東区 杉田 裕輔

私は2019年12月に「おなか内科東白壁クリニック」を開業しました。開業まで建設資材がなかなか入ってこず工期が遅れ気味であったり、開業が目前に迫ったころには電話会社のミスでインターネット回線が2、3カ月繋がらないかもしれないなどのトラブルがあったりと、直前まで落ち着かない状況であったことを思い出します。それでも何とか予定通りにオープンにこぎつけ、落ち着こうとした矢先にCOVID―19感染症の大流行という、稀に見る混乱に巻き込まれました。オープン直後でも比較的好調であったと思われた平均来院患者数も、2020年4月の緊急事態宣言ではオープン月の来院患者数以下にまで落ち込んでしまい、まだよく得体の知れないこの感染症に漠然と恐怖感を抱いていました。それでも人間の慣れとは恐ろしいもので、8月頃には人出が戻ったりもして、それほど影響を受けなくなったことを思い出します。そして、10月からはPCRを導入し2021年6月には院内にPCR機器を導入、この記事を執筆している2022年8月下旬には発熱外来で1日50件以上のPCR・抗原検査を行うまでに至っています。

開業すると、勤務医の時には経験しない業務をこなさなければなりません。経営についても素人同然でしたし、看護師や事務などのスタッフの管理もしなければなりません。また医療についても、勤務医時代は他科に紹介してしまえばある程度片付いていたことも、知らないと言うわけにはなかなかいかず、研修医の時代に購入した本を久々に開いてみたりする必要も出てきます。しかし、受診してくれる患者さんに「先生に聞いてもらえてよかった」、「受診するか迷ったけど、来てよかった」などと言ってもらえた際は喜びもひとしおです。

オープン直後のコンセプトとしては、大病院でしかなかなかできない検査を手軽に行うことのできるクリニック、内視鏡を手軽に行うことのできるクリニック、ということを考えていました。しかし、場合によっては、なかなか難しいかもしれないという印象を抱いているのも事実です。内視鏡、CTの実績についてはオープン以来着実に実績を伸ばすことができていますが、それでもやはりCOVID―19の流行状況によって浮沈がある印象です。専門性はやはり大事ですが、状況に応じ診療内容を充実する必要もあると考えます。

都心部ではクリニックの数もコンビニの数よりも多くなった、と言われています。自分の得意分野を活かしつつも、柔軟に対応することが大事だと考えています。
またスタッフやその家族がCOVID―19に感染して出勤できなくなったり、医師自身が感染したという話もよく聞きます。おそらく、こういった新興感染症のリスクは将来的にも否定できないでしょう。今後開業を考えている先生方には、余裕を持った開業スケジュールを立てておくことと、開業後のシミュレーションを十分に行い、リスクに備えておくことが重要だと考えます。

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