(愛知保険医新聞2022年2月15日号)
政府は、75歳以上の患者窓口負担を今年10月から2割に引き上げることを決め、2022年度政府予算案で300億円の予算削減を見込んでいる。4月からの診療報酬の実質マイナス改定などと併せて、社会保障費自然増分は計2200億円削減されている。
長引く新型コロナ感染症拡大のもとで国民生活は困窮を極め、医療や介護の受診、利用手控えで高齢者の健康悪化も懸念されている。協会が会員医療機関に行った調査では、医科の4分の1、歯科の半数近くで直近半年間に受診の遅れや重症化事例を経験している。事例では、高血圧、糖尿病、認知症、骨粗しょう症の悪化や歯科受診の手控えによるう蝕の進行・多発及び重症化(歯髄炎、抜歯等)などが寄せられた。
高齢者には、複数・長期・重度といった病気の特徴がある。このため、75歳以上の高齢者の自己負担額は、窓口負担が原則1割の現在でも、75歳未満と比べて、受診率は、外来で2.4倍、入院で6.2倍であり、医療費も外来で3.5倍、入院で6.6倍など、3割負担の現役世代より重い実態がある(社会保障審議会医療保険部会資料)。
一方、高齢者をめぐっては、公的年金額が4月から引き下げられる。国民年金で40年加入の場合、月額2600円もの給付引き下げである。食料品や灯油の値上がりで、生活苦には何重の負担増が襲いかかっている。
なお、2割負担化の議論の中には、「能力に応じた負担」「受益者負担」の考えが広く見られたが、「応能負担原則」は保険料や租税負担にのみ適用されるべきものである。「受益者負担」については、二木立日本福祉大学名誉教授が「患者が医療を受けることで得る『受益』とは、病気から回復・改善することであり、消費者が一般のモノやサービスを利用して得るプラスの利益―満足感、経済学的には『効用』―とは全く異なる」と指摘しているとおりである。
以上、述べたように、75歳以上の窓口負担2割化は中止すべきである。後期高齢者医療制度発足時の広範な反対世論を受けて、70歳から74歳の窓口負担は、2割負担を定めた法改正後も予算措置で実質1割に措置された経験がある。
野党には、75歳以上医療費窓口負担2割化を中止する法案を提出・成立させることや、上記予算案の組み換え修正を行うことなどの奮闘をお願いしたい。