糖尿病および糖尿病合併症を有する患者に対する歯科治療の留意点
歯科学術委員 加藤 信義
協会歯科学術委員会は、12月2日(水)に、シリーズ研究会「他科の疾患を持った患者さんの歯科治療」を開催した。第3回となる今回は愛知学院大学歯学部内科学講座主任教授の松原達昭氏を講師に「糖尿病および糖尿病合併症を有する患者に対する歯科治療の留意点」のテーマで行われた。講演の概要を歯科学術委員の加藤信義氏がまとめたので紹介する。
糖尿病の概要
わが国の糖尿病患者数は増加の一途をたどり、2007年の調査では、予備群を含め2210万人(6人に1人)と発表されている。一方、糖尿病は合併症の病気であると考えられ、歯科治療においては、血糖コントロール状態に注意を払うとともに糖尿病合併症に目を向ける必要がある。糖尿病の急性合併症である感染症、慢性合併症と目される糖尿病腎症、歯周病、動脈硬化性疾患を中心に歯科治療における留意点に関しての講演会が行われた。
現在の糖尿病の診断は(1)早朝空腹時血糖値126mg/dl以上、(2)75g経口ブドウ糖負荷試験で2時間値200mg/dl以上、(3)随時血糖値200mg/dl以上で(1)~(3)のいずれかの血糖値が確認され、別の日に行った検査で、(1)~(3)のいずれかで再確認できれば糖尿病と診断できる。ただしHbA1cが6.5%以上の場合は一回の検査が糖尿病型であれば糖尿病と診断してよい。
抜歯時、抗生剤投薬時の留意点
まず抜歯に関しては血糖コントロール指標が、不可(HbA1cが8.0%以上)でなければ、術後の感染に注意すれば特に問題はない。
糖尿病慢性合併症である腎症の歯科治療において、解熱、鎮痛、抗炎症薬の投与に関しては、代謝がほとんど肝臓であるため、そんなに問題はない。また抗菌薬に関しては肝代謝であるマクロライド系の投与が無難である。他の抗菌薬も症状に応じて量を調節すれば、大きな問題はない。
糖尿病合併症と歯科治療
歯周病は従来から糖尿病の合併症としてとらえられ、主因として、コラーゲンの合成阻害、マクロファージや好中球の機能異常、微小循環障害、終末糖化産物(AGE)の炎症性組織破壊の関与、そして炎症性サイトカインの関与などが考えられている。歯周病が重症である程、血糖コントロールは不良となり、局所治療にて歯周組織の慢性炎症を改善すると、インスリン抵抗性が軽減し、血糖コントロール状態が改善することが報告されている。
動脈硬化性疾患の抜歯時の際には、抗凝固薬、抗血小板薬を中止しないように記されているが今後医科歯科の医療連携が求められる。
低血糖時の対応
その他、低血糖時の歯科開業医ができる対応としては、経口摂取が可能な場合はブドウ糖(5~10g)またはブドウ糖を含む飲料水(150~200ml)を摂取させる。ショ糖では少なくともブドウ糖の倍量(砂糖で10~20g)飲ませるが、ブドウ糖以外の糖類では効果発現は遅延する。経口摂取が不可能な場合は、ブドウ糖のパック(薬屋さんで入手可能)を唇と歯肉の間に入れるのが良いそうだ。
局所麻酔の留意点
糖尿病に関しての局麻の使用基準はない。最後に歯周病と糖尿病の双方の関係については現在国内では大規模な疫学調査成績はなく、今後取り組んでいくそうだ。
歯周病と糖尿病の関係
また、歯周病を改善するとHbA1cが有意な差をもって改善するというデータはそんなに多くはないが、症例によっては関連するという状況だ。現在のところ、歯周病の悪化が糖尿病悪化を招くことよりも、糖尿病が悪化すると歯周病が悪化する症例のほうがより多く経験されるようである。
※当日の様子を撮影したDVDをご希望の先生は、協会歯科担当事務局までご連絡下さい。