他科の疾患を持った患者さんの歯科治療(1)

歯科医師が知っておきたい医科系疾患のポイントと歯科医療安全対策

歯科学術委員会副委員長 田知 正

協会歯科学術委員会は、五月十七日(日)に「他科の疾患を持った患者さんの歯科治療」研究会を開催した。第一回は前岡崎市民病院口腔外科統括部長の山田祐敬氏を迎え「歯科医師が知っておきたい医科系疾患のポイントと歯科医療安全対策」をテーマに行った。歯科学術委員会副委員長の田知正氏から感想が寄せられているので紹介する。

近年、生活習慣の欧米化や高齢者の増加に伴い、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患等歯科診療を進める際、考慮しなければならないリスクを持った患者が、増加傾向にある。病診連携を一層緊密にする事が、以前にも増して重要と成ってきているが、考慮しなければならない問題点がいろいろあるように思う。
医科、歯科共にその教育課程から相互理解が欠如し、臨床現場に措いても、相互理解の機会は乏しく、結果、相互理解には程遠い、時には相互不信の現状が先ず挙げられる。
このような状況を改善する為に、歯科医師側としては、医科側の状態を理解する為の努力を惜しんではならないと思う。基本的な事柄だが、医学用語の正確な理解、例えば血液検査に於ける検査項目、データの内容と意味の正確な理解が出来るようにする必要がある。
共通の言語があって初めて相互理解が成立つ訳である。共通言語を使い、医科側に働きかけ、歯科治療の実態を正確に理解してもらう努力も不断に続けるべきと思う。
歯科医師側のこのような努力により、時に我々歯科を悩ませる医科側の、安易な処置や投薬の改善を見ることになれば、それは連携の大きな成果の一つと言えると思う。
最近の歯科受診者の罹患傾向で注意しなければならない代表例が、抗血栓療法患者への対策である。以前は抗凝固、抗血小板薬(ワルファリン、アスピリン等)の服用を一時休止してもらい、凝固系が正常に戻った頃を見計らって抜歯等を行ったが、最近は休薬する事無く歯科処置をする事を求められるケースが少なくない。諸般の事情で口腔外科専門医等に送る事が出来ず、自ら判断しなくてはならない状況も増加している。このような場合、処方医から提供される血液検査データの正確な理解が求められる。中でもPT―INRとTTの関係に注意する必要がある。
PT―INR四・〇以下では休薬しない、難抜歯の場合は三・〇以下を目安とする等の事柄を理解した上で、処方医と緊密に連絡を取りその指示に従う事、術後の不測の事態(後出血等)について予め患者に説明する必要性は、対患者、対処方医との相互信頼関係を維持する上で極めて重要な事と思う。
高血圧患者、狭心症患者、脳梗塞患者に歯科治療を施す場合も、夫々留意していかなければならない項目が多々あるが、相互信頼関係を良好に維持する為に、配慮しなければならない事である。最近話題のBP製剤については、一層慎重に取り扱う必要があると思う。
臨床歯科医師として良質な医療を提供すると言う事は、自らの専門性を高めつつ、細心の配慮を行い安全医療を提供すると言う事でもある。
自らの限界を知った上で、細心の配慮を払い患者、連携医科との信頼関係を構築する事の重要性を再認識させられた講習会でした。

※当日の様子を撮影したDVDをご希望の先生は、協会歯科担当事務局までご連絡ください。

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