(愛知保険医新聞2025年4月15日号掲載)
医師の働き方革で2024年4月から医師の時間外労働の上限規制が設けられ1年が経った。時間外労働の上限規制を受けて、全国的に宿日直許可の許可件数が増加した。宿日直許可があれば、その時間は労働時間にカウントされない。日本産婦人科学会は3月12日、全国の分娩取扱い病院への調査で宿日直許可取得(一部取得含む)の施設が全体で83.5%となり、宿日直許可の取得で「実労働時間が正確に把握・計上されず、過労リスクが増大している」と指摘している。
協会勤務医の会では、昨秋に「勤務医の働き方実態調査アンケート」を行った。このアンケートでも、宿直で「充分な睡眠がとれないことが多い」「いつも充分な睡眠がとれない」との回答が4割を超え、宿直では充分な睡眠がとれない実情が伺われる。宿日直許可が、時間外労働の上限規制の抜け道にならないよう、実態把握が求められる。
またアンケートでは、「自宅待機(オンコール)が無給であるため、精神的、身体的負担が強い」「見た目上の時間外が減るのみ」といった声もあった。オンコールや自己研鑽、サービス残業など労働時間とみなされない拘束時間に負担を感じる声が寄せられている。「医師不足という根本が変わらない限り、医療の質が落ちたり、特定の医師への負担が増えるだけ」との意見もあった。
1980年代以降、国は医療費抑制政策のもと医師養成数を抑制してきた。2008年に医療崩壊が問題になったことを契機に、医学部の定員が増やされたが、それでも人口当たりの医師数はOECD加盟国平均の3分の2程度に留まっている。国は昨年末に「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」を取りまとめ、医師偏在対策に注力する一方で2027年度から医師養成数を減らす方針だ。医師の偏在の大元には絶対的な医師不足がある。国には長時間労働を前提とした医師の需給予測を改め、医師の増員で勤務医の待遇改善と医療の質の担保に責任を負うよう求めたい。
自民・公明・維新各党は、国民医療費を年「最低四兆円削減」することなどを念頭に協議を進めることで合意している。低診療報酬に加え、物価や人件費高騰で医療機関の経営は危機的状況である。勤務医の待遇改善と医療機関の経営がともに成り立つには、医療費の総枠拡大が必要不可欠である。