(愛知保険医新聞2025年2月25日号掲載)
あの未曾有な被害をもたらした東日本大震災と福島第一原発事故から、まもなく14年になろうとしている。震災復興がまだ途上にあるというこのとき、政府の原発政策に大きな転換がもたらされた。原発の低減から、最大限活用への方向転換である。
岸田政権の「GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針」で、原発回帰へ転回をうけて、2月18日に閣議決定された「第七次エネルギー基本計画」では、「可能な限り原発依存度を低減する」の文言を削り、原発を「最大限活用する」ことを打ち出した。
福島事故の教訓を投げ捨て、原発回帰を鮮明にしたもので断じて許しがたい。公害環境対策部会も原発回帰に反対のパブリックコメントを提出した。
そもそも原発は政府の言う脱炭素効果の高い電源ではない。「原発はCO2を出さない、クリーンな電源」と喧伝されるが、考えてみよう。確かに発電時にCO2の排出はしないが、トータルで考えればまったく違う。ウラン原料の採掘、精製、加工時などに、CO2を排出する。船などの輸送でも同様である。さらに言えば廃炉時も多量のCO2を排出する。太陽光、小水力、地熱、風力、潮力利用の再生可能エネルギー普及こそ重要で、原発は海外に原料を頼らなければならないが、自然エネルギーは国内で充分まかなえる。
原発は事故、トラブルが頻発する不安定電源であり、CO2排出の多い火力発電のバックアップが必ず必要になる。また、ひとたび大事故がおきれば住民の生命、健康、生活に取り返しがつかないことは、東京電力福島第一原発事故で、痛切に学んだことである。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、地球温暖化が危険な気候変動をもたらし、それが人間活動に起因することは疑う余地がないとし、地球の気温上昇を工業化以前の水準から、1.5℃以内に抑えることを提言している。今のままではそれが達成されず不可逆的な深刻な事態をもたらすとして、昨年「明日を生きるための若者気候訴訟」が名古屋地裁に提訴された。
地球温暖化防止のためのあらゆる努力が求められる。原発をゼロにし、再生可能エネルギー中心のエネルギー構成を早期に達成しなければならない。私たちは、命と健康を守る医師・歯科医師として、協力を惜しまない。