(愛知保険医新聞、2023年11月25日号「主張」)
「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」が10月1日から施行された。物価高騰などで苦しむ事業者にさらなる金銭的負担を押し付け、免税事業者やフリーランスからは「廃業せざるを得ない」などの声まで上がっている。課税事業者でもシステム改修など事務負担が生じている。
10月以降、課税事業者(簡易課税を除く)が従来通り仕入税額控除を受けるためには取引先から一定の要件を満たしたインボイスを発行してもらい、保存することが必要だ。インボイス発行のためには税務署へ登録申請を行う必要があるが、登録することで強制的に課税事業者となるので、免税事業者はこれまで免除されていた消費税負担が生じてしまう。免税事業者のままでいることを選択しても、取引からの排除や消費税分の値下げを求められる危険性がある。激変緩和のため、免税事業者からの仕入れについても6年間は仕入税額相当額の一定割合を控除可能とする経過措置が設けられているが根本的な解決にはなっていない。
一方、医療機関は非課税取引である保険診療が中心なので多くの医療機関が免税事業者だ。また、最終消費者である患者個人にインボイスを発行する必要もない。しかし、健診や予防接種などの対企業との取引や、医師会が直接受託する自治体健診等の取引ではインボイスを求められる場合がある。損税問題も未解決のまま、これ以上の負担は到底受け入れられない。
「インボイス中止を求めるオンライン署名」は56万筆を超えている。国税庁はインボイス制度を「事業主が取引を行う際の消費税の税率や税額を正確に把握するため」としているが、インボイス制度の真の狙いは免税制度の実質的縮小・廃止による増税、さらなる消費税率引き上げだ。
そもそも消費税は強い逆進性を持ち、赤字であっても納付が必要な究極の不公平税制だ。政府はインボイス制度の導入で少なくとも約2,480億円の税収増を見込んでおり、「税率を変えない消費税増税」と批判されている。コロナ禍や物価高騰をきっかけに世界では百以上の国・地域で日本の消費税に当たる付加価値税の減税を実施しており、日本でも消費税減税は不可能ではない。岸田首相は「税収の伸びを分かりやすく『税』という形で国民に還元する」とし、所得税・住民税の減税を行う予定だが、そうであればインボイス制度は中止し、消費税減税を優先すべきではないか。