愛知県保険医協会は、安倍元首相の国葬に反対する理事会声明を8月5日に首相官邸当て送信しました。
(2022年8月5日)
岸田内閣は、7月22日の閣議で安倍晋三元首相の国葬を9月27日に行うと決めた。
国葬は、国が個人の葬儀を主催し、その費用に国費(国民の税金)を充てるものであり、戦後は一例を除いて実施されることはなかった。安倍元首相の国葬を行うことについて、世論の賛否は大きく分かれており、これを強行することは以下に述べる通り、重大な問題をはらんでいる。憲法に基づく民主主義を守る立場から、当協会は安倍元首相の国葬に強く反対する。
【法的根拠がなく財政立憲主義に反する】
現在、国葬について定めた法令は存在しない。
戦後唯一の例外として挙行された吉田茂元首相の国葬に関しても、塚原敏郎総務長官(当時)は「根拠になる法律もなく苦労した」と述べている。また佐藤栄作元首相の死去に際し、国葬の実施が検討されたときも、「法的根拠が明確でない」とする内閣法制局の見解等によって見送られた経緯がある。このように国葬に法的根拠のないことは明らかであり、岸田首相が内閣府設置法の内閣府所掌事務の「国の儀式」にあたるとして、閣議決定があれば実施可能とした解釈は到底認められない。
このように法令上の根拠のないまま内閣の独断でこれを行うことは、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない。」(憲法第83条)とする財政立憲主義の観点からも許されない。
【国民の思想・良心の自由に反する】
安倍元首相の葬儀を国が主催し、国費を支出することは、個々人が故人を悼むこととは異なり国家として当該個人への弔意を表すことになる。したがって、すべての国民が安倍元首相への弔意を事実上強要されることになりかねない。すでに、安倍元首相の葬儀にあたり、弔旗を掲げたり、記帳台や献花台を設置したりした自治体もあり、学校現場でも半旗の掲揚を求めた事例が生じている。政府が国葬を実施すれば、こうした傾向がさらに助長されることが懸念され、こうした弔意の強制は、憲法第19条で規定された思想・良心の自由を侵害するものであり許されない。
また、安倍元首相が銃撃により死去したことで安倍氏の功績をことさら大きく持ち上げるような政治的利用が意図されているのであれば、憲法の立憲主義の立場からも許されない。
コロナ第7波の感染が急拡大しているなかで、今政府が行うべきことは、国葬に充てられる予算をコロナ対策に回すことではないか。
以上のことから、当協会は、安倍元首相の国葬に反対する。