(愛知保険医新聞2022年5月25日号)
岸田政権は、「新しい資本主義」を謳い、首相選出前までは金融所得課税強化や賃上げ企業への税控除の拡大、看護職・介護職への処遇改善などに期待する世論もあったが、金融所得課税の強化策は早々に先送りされ、所得税の累進性の強化など所得再分配機能の強化策などは皆無である。二宮厚美氏(神戸大学名誉教授)は、「戦後定着してきた生存権に基づく社会保障を『共助・連帯としての社会保障』に転換することを狙った岸田ビジョンは『脱新自由主義』から『新自由主義への回帰』へと、逆回転に向か」っていると評している(愛知保険医新聞2022年5月25日号5面参照)。
6月の「骨太方針2022」決定に向けて、政府審議会が議論を重ねている。
財政制度等審議会(財政審)は、「リフィル処方箋の使用を、患者側の希望を確認・尊重する形で促進し、保険者へのインセンティブ措置も活用して、一気に普及・定着を図るべき」(4月)と提言を行っている。大阪府保険医協会の会員アンケートでリフィル処方については「反対」が回答者の9割に達しているように、リフィル処方は、医療現場から求められてはおらず、無診察診療を助長し医療の質の低下を招きかねない。
さらに財政審は、病床削減や病院統廃合を進める地域医療構想についても推進を掲げ、「医療法上の都道府県知事の権限強化を図るべき」と述べている。医師会や保険医協会は地域医療計画策定にコロナ禍で明らかになった感染症対応の病床確保を求めているが、せめぎ合いとなっている。
財界団体の経済同友会からは、「現在、出来高払いとなっている医療・介護保険にも自動調整機能を盛り込み、企業や働く個人の保険料負担が一定の水準を上回る場合には、医療・介護給付の伸びが経済成長率を上回らないようコントロールする」と言う「サーキットブレーカーの導入」や、「後期高齢者の医療費自己負担2割の対象範囲を、少なくとも『一般』区分にあたる所得水準まで対象範囲を拡大すべき」などの提言を行っている(4月)。財政審でも、かつて小泉医療改革当時に浮上した「医療費総額管理」制度の再提言が行われており、医療の質や内容を基にした議論ではなく医療費総額を頭から押さえ込む乱暴な議論の復活を許してはならない。
後期高齢者医療制度の2割化の対象範囲拡大は、昨年の法改正時に予想されたことであり、この秋の2割化の中止こそが今求められている。