2020年4月8日

歯科診療報酬改定-現場の声と要求を大切にする改定を

(愛知保険医新聞2020年4月5日号)

 今回の改定の特徴の一つは、初診料注1の施設基準の届出要件に、歯科医師に加え、診療補助や器具洗浄に携わる職員についても院内感染防止対策の研修の実施・報告を義務づけたことだ。初診料の施設基準については、届出の有無で基本診療料の初・再診料に差をつけ、歯科医療機関を分断するものであると、協会は一貫して廃止を求めてきた。今回の職員研修は、医療法に基づく院内感染防止にかかる研修を、院内で行うことで足りるとされているが、これはすでに各医療機関で行われていることである。これを新たに施設基準と位置づけ、届出を強要するやり方に意味があるのか。安心・安全で質の高い歯科医療の提供を謳うなら、厚労省・中医協は「財源に限りがある」などと言い訳せず、きちんと院内感染防止対策のコストに見合った初・再診料を設定すべきである。
 もう一つの特徴は、歯科疾患管理料(歯管)に長期管理加算を新設したことと、歯周病重症化予防治療(P重防)を新設したことだ。これは、歯科医療の在り方を「治療中心型」から「治療・管理・連携型」への転換の具体化ともとれるが、歯科疾患の継続管理推進の旗を掲げ、長期管理に入ることで新たな初診を起こしにくくする布石である。
 8020運動の成果もあり、80歳で20本以上の歯を残す高齢者は50%を超えた。この事実は、超高齢化社会の中、認知症や寝たきりなどの要介護状態に陥るのを防ぎ、健康寿命を延ばす上で大きな成果だ。
 しかし、長期管理加算は「かかりつけ歯科医機能」の名の下、施設基準の有無で医療機関の間に点数の差をつけ、格差を広げる。このやり方は、住民の健康寿命延伸へと地域医療を担う歯科医院の努力を蔑ろにするものだ。そもそも「かかりつけ医」とは、患者と医療機関が互いの信頼関係を基に協同して作り上げるものである。院内感染防止対策には極めて不十分な低点数の再診料(53点)で、「長期的、継続的に管理せよ」との上から目線の政策は現場に矛盾を押しつけるものでしかない。
最後に、今回の改定でも「金パラ『逆ざや』問題」は解決しなかった。貴金属価格が乱高下している今、わずかな材料価格引き上げでは何も変わらない。点数改定の根拠となる材料価格調査の内容が非開示なのも訝しい。仮に3カ月ごとの改定が行われたとしても、国民皆保険制度における歯科医療の歴史的、構造的な問題にメスを入れない限り、金パラ「逆ざや」問題は解決できない。

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