2020年3月18日

原発ゼロ-福島原発事故9年目に考える

(愛知保険医新聞2020年3月15日号)

 東日本大震災・福島原発事故から、9年が経過した。原発事故のおきた福島県を中心とする地域は、放射能汚染があり、復興に特別の困難をかかえている。2019年12月の保険医協会公害環境対策部主催の公害環境問題講演会で、和田敏裕氏(福島大学環境放射能研究所准教授)は、福島県沖の魚の放射能汚染は、現在ほとんどみられなくなり、試験操業され魚が市場に出回っていると話した。しかし、売れ行きは震災前には遠く及ばない。このような時、「放射能汚染水」を、海に流す計画が浮上してきた。トリチウムを含んだ放射能汚染水の処理方法を、経産省の小委員会が3年かけ議論してきたが、このほど薄めて海に流す方法が最良との結論を公表したのである。許容基準値以下に薄めて海に流す方法は、自然放射線レベル以下であるので問題ないとするが、拡散の仕方や、生物濃縮の程度など不明の点が多々あり、安易に決定すべきではない。何よりも、漁業関係者の納得を得るべきである。
 この1年、原発の問題点が、様々な形で露呈してきた。1つは、関西電力の会長はじめ幹部や町長らが、福井県高浜町の元助役から総計3億円余の金品を受け取っていたという事件。元はといえば、金の力で危険な原発を地方に押しつけてきた政策の行き着く先ともいえる。もう1つは、強制起訴された東京電力旧経営陣3人への、全員無罪の1審判決である。「原発神話」を追認したもので、各地の被災者集団賠償訴訟で国の責任を認めない判決と同様、司法の姿勢が問われる問題である。
 原発の再稼働は、新たに女川原発が新規制基準を満たすとされた。しかし一方では、広島高裁で伊方3号機の運転差し止めを認めている。また、規制委員会が「特定重大事故等対処施設」設置の猶予期限延長をしないと筋を通しているため、今後一時的に全原発が停止される事態となっている。
 このように紆余曲折があろうが、原発は安全対策費等の高騰もあり採算がとれないなど、世界的な流れとしては、原発ゼロ、再生可能エネルギーの拡充の方向が一貫している。
 保険医協会は、県被災者支援センターに参加し、愛知県に避難してきた被災者の支援を行ってきたが、私たちは、国民の命と健康を守る医師として、原発避難者の支援を今後も続けていくとともに、原発ゼロの日本をつくる決意を、ここにあらためて表明する。

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