2019年8月28日

社会保障予算-自然増や診療報酬を削る方針は転換を

(愛知保険医新聞2019年8月25日号)

2020年度の社会保障予算概算要求基準は、高齢化などに伴う自然増分を5300億円までとすることが今月上旬に閣議了解された。しかしこれは、予算編成の方針であり、「年末にかけた来年度予算編成では、伸びを5300億円からどこまで抑えるかが大きな焦点になる」(メディファクス、7月26日)とあるように、さらに削り込まれる可能性を視野に入れて、この秋、社会保障予算削減を食い止める取り組みが求められる。
「自然増」は、8000億とも1兆円ともいわれるもので、概算要求段階で抑えてしまうこと自体が許されない。この先、団塊の世代が後期高齢者となる2022~25年度の4年間で各年8000億~9000億円の自然増が見積もられており(1月30日、経済財政諮問会議民間議員資料)、自然増を抑え込むのはさらに厳しくなる。そこで、社会保障に予算をかけない方策が議論されていることに注意が必要だ。
7月末の経済財政諮問会議では「若年層・中年層の消費が力強さを欠く背景には、将来不安の影響がある」「若年層・中年層に対し将来の安心感を与える社会保障改革を着実に推進していくべき」との議論があった。昨今の消費低迷の大きな原因に若年層・中年層の消費が鈍っていることはよく知られているが、その背景に社会保障制度への不安があり、対策が必要という、その認識は筋違いではないだろう。しかし、同会議のそれへの処方は、「社会保障サービスの徹底した効率化」「予防・健康づくり」と続いていて、翻訳すれば社会保障への公的支出を削減し、自己責任による予防や健康づくりで活性化をとなっている。こうなると、それで得られる効果は経済にとっても逆効果といわざるを得ない。
来年度予算編成で、社会保障サービスの効率化と自然増削り込みの具体策として出ている有力な材料は、来春の診療報酬改定である。前述の経済財政諮問会議で示された「予算編成の重点」には「病床のダウンサイジング支援、診療報酬の大胆な見直しによる病床機能の転換」「薬価制度の抜本改革、調剤報酬の適正な評価」などとなっている。窓口負担増を伴う法改正などが来年度には少ないこともあり、診療報酬は相当厳しい改定を迎える可能性がある。
長寿で増える当然の支出を確保しつつ、医師や医療従事者、病床など医療提供体制の十分な確保にも目を配る予算編成の視点こそ必要だ。

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