(愛知保険医新聞2024年10月5日号)
全国保険医団体連合会(以下、保団連)が今年8月に実施した「2024年5月1日以降のマイナ保険証トラブル調査(中間集計)」には、全国から10,242件の回答が寄せられている。「今年5月以降にマイナ保険証に関するトラブルがあったか?」との問いに対し、実に69.7%の医療機関が「あった」と回答している。保団連・保険医協会では、昨年も同様の調査を行っているが、「あった」の割合に変化が見られない。政府は昨年11月末まで、相次ぐトラブルを受けて「マイナンバー情報総点検」を実施したが、今回の保団連の調査で明らかになったのは、「総点検後」もトラブルが起き続けているということだ。
この様な状況のまま、12月2日に現行の保険証の新規発行を廃止すれば、医療機関の窓口で大きな混乱が起こることは明らかだ。保団連の行ったアンケートでは、「保険証が廃止された場合の受付業務がどうなるか」についても尋ねており、多くの医療機関が「廃止後は受付業務に忙殺される」「診察の待ち時間が長くなる」と回答している。政府がデジタル化のメリットとして挙げていた「事務作業の効率化」は机上の空論と言わざるを得ない。
今年8月のマイナ保険証利用率は12.43%で依然として低迷を続けている。政府は5~7月を「マイナ保険証利用促進集中取組月間」と位置付け、各種メディアで大々的に広報を行ったほか、医療機関・薬局への一時金を設定するなどマイナ保険証利用率向上に大量の税金を投入した。それにも関わらず9割近くの国民が現行の保険証を利用している意味は重い。
保険医協会は医療のデジタル化について、反対する立場ではない。しかし、あまりにも性急に保険証を廃止することは、国民が医療にアクセスする権利を阻害することになり許すことはできない。
本来、マイナンバーカードが国民にとって真に便利なものであれば、このように強引な手法を用いなくても普及するはずである。制度の不充分さを棚にあげて、国民と現場の医療機関に負担を押しつけることは許されない。
9月27日の自民党総裁選で総裁に選出された石破氏は、総裁選で「期限が来ても納得しない人がいっぱいいれば、併用も選択肢として当然だ」と述べている。政府方針の早急な見直しを求めたい。