歯科医療と隣接医学研究会報告

歯科医師が知っておきたい循環器系疾患のポイント
歯科学術委員 北村 恒康


 協会歯科学術委員会は、9月26日(土)に「歯科医療と隣接医学研究会」を開催した。今回は、愛知学院大学歯学部顎顔面外科学講座准教授の宮地斉氏を講師に「歯科医師が知っておきたい循環器系疾患のポイント」のテーマで行われた。講演の概要を歯科学術委員の北村恒康氏がまとめたので報告する。

 今回のテーマは、循環器の医師と歯科医師との橋渡しがうまくできるための話題提供です。代表的な循環器疾患と、それに投与される薬剤などの解説をうかがいました。

歯科医師養成の方向性求められる歯科医師像


 超高齢社会に対応するため、医科の医療機関や介護保険施設等の他分野との連携に対応すること。全身疾患を有する高齢者に対して、安全安心な歯科医療を提供していくことが求められている。歯科では健常者のみの治療をしていればよいという時代は、終わりにきているようだ。

循環器系疾患


 心血管疾患(CVD)という呼び方に、変わりつつある。対診を行った場合、医科から返ってきた返信書類に記載されている用語の略称について。糖尿病、脳卒中、心筋梗塞のうち、2つ以上の罹患歴があると死亡リスクが増大する。歯科医師国家試験では医科関連設問が増加し、内容も多岐にわたっているとのこと。

意識評価法について


 Japan Coma Scale(JCS)は、おもに日本で使われている意識評価法である。
 3―3―9度方式とも呼ばれ、評価基準が判り易く日本では広く使われているので理解してほしい。救急隊との共通言語となりうるので、知っておいていただきたい。

外傷病院前救護ガイドライン(JPTEC)


 黄金の1時間、プラチナの10分。外傷を負ってから病院の手術室までの搬送、手術開始までの時間が1時間以内の場合は死亡率が低いと言われている。外傷を負った時点から救急車が現場を出発するまでの時間は、10分が目標とされ「プラチナの10分」と呼ばれている。JPTECプロバイダーコースは、医師、看護師、消防士、警察官、自衛隊員、医学部学生には受講資格がある。一方歯科医師は、救急部署に属するものだけに限定されており、一般開業歯科医師には受講資格が与えられていない。

高血圧症


 抗凝固剤の併用とあいまって、高血圧症では抜歯後出血が起こりやすい。老年では血圧が高くなる傾向があるため、一概に数値的な判断は難しい。抜歯当日に普段の収縮期血圧より大きく変動しているときには、様子をみる必要がある。拡張期血圧では、100mmHgを超えると、抜歯処置を控えるのが1つの目安といえる。

ステント治療


 薬物溶出型ステントでは、抗血栓療法が最低1年間必須なので抜歯処置を延期することを考慮したほうが良い。薬物溶出型ステントは、後出血に十分な注意と対応が必要である。

心機能分類と歯科治療の説明


 ニューヨーク心臓協会(NYHA)の心機能分類と歯科治療の説明があった(表1)。心機能分類Ⅰ、Ⅱ度では、キシロカイン(エピネフリン添加)2カートリッジ以内は可。Ⅲ度でも、1カートリッジ以内は使用できる(表2)。心疾患の患者には、十分な除痛後の治療が望ましいと考えられる。歯科における浸潤麻酔薬には、強い血管収縮剤が添加されているため、浸潤麻酔が覚めた場合の後出血を懸念すべきである。  

 

抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン


 抜歯時にワーファリンを休薬すると、約1%に重篤な脳梗塞を発症し、死亡例も報告された。脳梗塞発生率は、3.4倍になる。ワーファリンの場合、プロトロンビン時間国際標準値(PT―INR)が、3.0以下であれば、休薬した場合と比べて後出血の発生率に差が無かった。抜歯の中でも浸襲の少ない場合においては、抗血栓薬を休薬せずに継続して抜歯する。

多剤併用の場合は要注意


 適切な局所止血処置を行えば、抗血栓療法を継続しての抜歯は可能である。一方、盲嚢掻爬や歯肉剥離掻爬術などの歯周処置等については、止血方法などの検討の必要性がある。ダビガトランなど新規経口凝固薬では、76歳以上では消化管出血リスクの上昇が報告されていることから、歯科処置時に注意を要する。

患者への問診の重要性


 問診の重要性について。歯科治療の問題点を知るヒントを与えてくれる。医科からの書面だけでなく、現在の全身状態を患者の言葉で把握することが重要である。参加者からは、対診が必要な場合や投薬中における臨床上の注意点について質問が寄せられた。

あとがき


 歯科医師にとって、循環器疾患を診断するための話は必要ではありません。しかし、循環器疾患と診断された患者に対して、歯科で行う治療がどの程度の浸襲を与えるのか。その点に関しては、歯科医師にしか説明できません。
 医科と歯科との橋渡しの知識として、今回の講義は非常に意義のある講義と感じました。次には、他の医科疾患の講義も期待しています。

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