消化器外科志望者数の減少と未来予測、その影響について

愛知保険医新聞2024年7月25日号掲載

みよし市 市原 透

外科とりわけ消化器外科志望者の減少に歯止めがかからない。1990年ごろ日本外科学会への入会者数は1,500名/年ほどであった。今般4月に名古屋で開催された第124回日本外科学会総会での会頭講演によると入会者数は約700名/年程度に減少したが、昨年ようやく800名程度に回復したという。一方毎年9,000名を超える数が医師になっており、外科を除く各診療科において医師数は毎年増加しているとの報告があった。また後腹膜悪性腫瘍に関するセッションでは、多臓器に進展する特徴があり、腹部の大きな十字切開が必要な場合もある疾患である。切除には長時間を要し高い技術力が求められるが、それに見合わない極めて低い手術点数に抑えられている。鏡視下手術が増えるにつれ開腹の経験が少ない医師が増えているともいう。一方会場から美容外科に進む医師数が最近では外科学会入会者数とほぼ同数であるとする実態が伝えられ、会場では驚きをもって受け止められた。

また、消化器外科学会総会においても、消化器外科志望者数の減少が顕著で、その深刻さが伝えられている。平成25年7月に宮崎市で行われた第68回日本消化器外科学会総会での特別企画「消化器外科医を増やすための対策と提言」において、「外科医を取り巻く司法リスクとその対処法」なる演題があり注目を集めた。善意の医師による手術治療の悪しき結果に対して行われる不当な司法の介入は、医療委縮につながりその結果は国民の不幸につながるとの結論であった。
また今年4月24日、日本消化器外科学会から「国民の皆様へ」として以下の提言がなされた。
「地域における消化器外科の診療体制維持のために必要な待遇改善(インセンティブの導入など)について、ご理解と後押しをおねがいします。」

他の診療科に比較して外科、とりわけ消化器外科医は減少しており、その理由は業務の負担が大きく診療科の選択として敬遠されてきたことにあるとしている。消化器外科学会新入会員数は以前1,000名/年ほどであったが、最近では400~600名/年に減少し会員年齢も60歳代にそのピークがあるという。10年後には現在の4分の3、20年後には半分にまで減少する見込みとなり、がん治療や救急疾患の治療に深刻な影響が懸念されるとのことである。

対策としては、第一に医師数のさらなる増加が必要であろう。消化器外科志望者を増やすには、誇りをもって働けるような細かな対策が必要と考える。手術点数とりわけ開腹術に対する診療報酬の大幅な引き上げも求められる。宿日直回数が多いのは当面やむをえないとしても、ただ働きにならないよう超過勤務手当の満額支給は履行されなければならない。さらに、司法リスクに対しても医師会、学会、医療機関が連携して対策を講じ、外科医を守ることが必須条件である。
誰しもが、いつ何時手術を受けなければならない病気にり患するかもしれない。外科医の不足については、万人が自らの問題として深刻に捉え、皆で地域の外科医療を守るための方策を考えなければならない時代になった。

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