勤務医の会総会記念講演会

医療従事者のためのLGBTQ+講座~誰もが安心して受診できる医療を目指して

山下 洋充氏 (一般社団法人にじいろドクターズ理事・医師)

性には多様性がある

みなさんは、佐藤さん、鈴木さん、高橋さん、田中さん、伊藤さんという名字の人に会ったことがありますか。これらの名字を持つ人は日本の人口の約6%に当たります。LGBTQの人々も同程度、国内の調査では3%~10%と報告されています。偏見への恐怖から当事者が声をあげられないだけで、実際は患者や医療機関の職員として診療の場で出会っています。
LGBTQは、L(女性同性愛者)、G(男性同性愛者)、B(両性愛者)、T(出生時に割り当てられた性別と性自認が異なる人)、Q(クィア:性的マイノリティを広くさす言葉)(クエスチョン:セクシュアリティを探求中の人)の頭文字を取った言葉です。L、G、Bは性的指向を、Tは性自認を表し、Qは多様なセクシュアリティを表しています。
性的指向は恋愛や性愛の対象となる性を表し、性自認は自分の性をどのように認識しているのかを表します。
LGBTの他にも多くのセクシュアリティがあり、自分の性がはっきりとわからない人もいます。広く性的少数者を表す言葉としてクィア(Queer)やセクシュアリティを探求中のクエスチョニング(Questioning)の頭文字を加えてLGBTQと表現されています。
性には多様性があり、男と女に二分化され、LGBTQが少し存在するというものではありません。戸籍上の性別は男と女のみですが、性は虹のようにグラデーションがあり人の数だけ性が存在しているということを理解いただければと思います。性的指向、性自認はすべての人に関わることであるため、SOGI(ソジ:Sexual Orientation and Gender Identity)という表現も用いられるようになりました。

LGBTQと健康格差

性自認や性的指向を変更し、多数派に合わせることを目的とした「治療」には有効性と安全性について科学的に妥当な研究は少なく、変更ができるというエビデンスはありません。むしろ、抑うつ、自殺傾向、不安などの有害事象になりうるとの報告があります(アメリカ心理学会SCCEについての報告書(2009)他)。
当事者を中心とする人権活動の高まりを経て、1990年、WHOは「同性愛はいかなる意味でも治療の対象とはならない」としました。また、トランスジェンダーも障害や精神病理であるとの位置づけはなくなりました。
LGBTQの人々はうつや不安障害、自殺企図、喫煙・薬物使用のリスクが高く、HIVやAIDSを抱える人のうち半分以上が男性同性間の性的接触によるものです。また、レズビアン・バイセクシュアル女性のがん検診の受診率は低くなっています。
一方で、医療機関への受診に関しては、受診時に嫌な思いをしたことがあるかとの問いに、トランスジェンダーの人々のうち約半数が「ある」と回答をしています。具体的な例では、医師に、「そんな不道徳な生き方はよくないと説教された」、「戸籍上の名前が呼ばれるため、受診しづらくなった」など、医療者の差別や無理解に基づく対応が障害になっています。

医療機関を誰もが過ごしやすい場所にするために

LGBTQフレンドリーな医療機関になるために、施設レベルでは、「LGBTQの患者をケアします」という視覚的なサインを示し、差別をしないということを発信してください。ポスターやバッジ、レインボーのグッズなど非言語的なサインで示してください。なるべく、男女共用のトイレを設置しましょう。
問診表や同意書は、患者が最初にセクシュアリティを開示するものになります。最低限、性別欄の記載は自由記載に、不必要であれば削除することを検討しましょう。
コミュニケーションの中で最も意識していただきたいのは、医療者が患者の性行動や体について勝手に推測して質問しないことです。例えば、レズビアンの人だから異性との関係を持ったことがなく、子どももいないなどと推測するのは控えましょう。レズビアンでも子どもがいる場合もあります。イエス、ノーでこたえられる質問ではなく「あなたの家族について教えてもらっていいですか」といった「開かれた質問」を用いて確認します。
患者が自分や関係する人をどのように呼んでいるかよく聞き、「夫/妻」や「父/母」は本人がそう表現しない限り用いないでください。「パートナー、お連れ合い」や「親・保護者」などジェンダーにとらわれない言葉を用いてください。相手が用いても「おかま」「おねえ」「レズ」「ホモ」などは、支援者が用いるには不適切な場合もあります。
トランスジェンダーの方は、戸籍名で呼ばず、番号や通称名などが使用できる配慮が必要です。

個人情報の取扱い

セクシュアリティについて他人に打ち明けることを「カミングアウト」と言います。信頼を得てカミングアウトをされたら、最後まで話に耳を傾けてください。相手の話を決めつけず、話してくれたことに感謝を伝えてください。重要な点は、アウティングしないことです。アウティングとは、打ち明けられたセクシュアリティについて許可なく他の人に伝えてしまうことで、命にも関わる重大な問題です。聞いたことの記録や共有の範囲は、当事者に治療上の必要性を説明し許可を得たうえで、細心の注意を払って行う必要があります。

医療従事者への支援

医療の質の改善には、医療者への配慮も必要です。LGBTQの医療者も職場で困難を抱えている可能性があります。誰もが性の多様性を持っています。LGBTQについて取り組むのではなく、自分事として「SOGIについて取り組む」ことで、性自認・性的指向に関わらず働きやすい職場につながると思います。「アライ」(Ally)という言葉があります。LGBTQの支援者・味方という意味です。良いケアをしたいと考えていること、自分が「アライ」であることを当事者に伝えてください。あまり知識がないのに申し出てよいのか不安に思われる方もあるかと思いますが、自分は勉強中で何か失礼があれば指摘してくださいと伝えておくのもよいのではないでしょうか。一人ひとりの実践する姿が組織を、ケアを変えていきます。

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