(愛知保険医新聞2021年9月25日号)
国は2023年3月末までに全ての住民にマイナンバーカードを普及させる計画である。そのために保険証機能を付与し、10月から医療機関の窓口でのオンライン資格確認をスタートさせようとしている。しかし、専用機器を導入し対応可能となった医療機関は8月末で4.9%しかなく、マイナポイントなどのキャンペーンをうったにもかかわらずカードを作成した人は36.0%にとどまっている。いま医療現場はコロナ対応とワクチン接種に総力をあげている。医療機関にこれ以上の負担を押しつけるのはやめるべきだ。
オンライン資格確認によってレセプト返戻が減り窓口業務が軽減されるというが、資格喪失での返戻は0.27%に過ぎない。それよりも院内でのカードの置き忘れや紛失、カード持参の患者と保険証持参の患者の混在、カードリーダーの顔認証や資格確認の手続きの不慣れな患者への手助けなど、窓口での業務量が増える。また導入時には補助金があるが、その後のシステム維持の費用は医療機関の負担になる。
「今まで通り保険証で受診してください」「マイナンバーカードを持ち歩くことはキケン」をお知らせする院内掲示ポスターを活用し、マイナンバーカードの取得を急ぐ必要がないことをアピールしよう。
政府はオンライン資格確認システムを基盤に「データヘルス改革」を進める計画である。ゆくゆくは収集した医療ビッグデータを民間活用に結びつけ、個人の行動変容を図り医療費の抑制を狙っている。
9月からデジタル庁が発足した。政府はデジタル化によってコロナ対策をはじめ、様々な問題が解決するかのように言う。しかし、目的は行政機関などが保有する個人情報を利活用する仕組みづくりだ。個人情報を大規模に集める手段がマイナンバー制度の利用拡大とマイナンバーカードの普及である。
10月からはNTTデータが提供する預貯金等照会業務のデジタル化サービス(pipitLINQ)が始まる予定である。行政機関と金融機関双方が加入することで税務署や市町村などが国民の預貯金情報を簡単に照会できる仕組みである。
プライバシーを守る権利は憲法が保障する基本的人権だ。どんな情報が収集されているのかを知り、不当に使われないように関与する権利、自己情報コントロール権、情報の自己決定権を保障することが急務である。個人情報保護を蔑ろにすることは許されない。