(愛知保険医新聞2020年11月25日号)
コロナ禍で多くの国民は実質賃金減少や賞与ゼロなど収入減少に見舞われ、なかには失業・雇い止めなどの苦境に陥っている人も増加している。その折に、前政権から続く全世代型社会保障検討会議は12月に出す最終報告に向けた議論を進めている。その中心争点は、75歳以上の2割負担化である。
経団連や健保連などは、原則2割化を主張している一方、厚労省は介護保険と同様の収入の上位20%で線引きする考え方等を示している。
日本医師会は、「収入に対する患者一部負担の比率は年齢とともに上昇する。後期高齢者では、1割負担の現状でもかなりの負担」「後期高齢者が過剰な受診をしているとは言えない。入院外受診には在宅医療も含まれており、在宅医療から高齢者を遠ざけるようなことをしてはならない」「応能負担は本来、税・保険料に求めるべき」で「限定的にしか認められない」と主張し、導入する場合は介護保険で3割負担となる340万円で線を引くべきと発言している。日本慢性期医療協会の池端副会長は「個別には2倍の負担になる人も相当数いて、かなりの受診抑制につながる」と主張している。
今でも、年収に対する窓口負担割合は、75歳以上では、40~50代の2~6倍近い負担がかかっている。これ以上の負担増は、深刻な受診抑制を招き、健康悪化も懸念される。
国会では、すでに実施されている介護保険の2割負担化(年収280万円以上の人が対象)で4%近くの人がサービスを減少・中止していることが質疑で明らかになっている。
政府与党の中でも負担増には慎重な声は少なくない。自民党の人生100年時代戦略本部の会合では、「『原則2割』はやり過ぎだ」「コロナ禍の今、受診控えの懸念もある。負担増が社会的に許容されるのか」との発言もあったという。全国知事会からも「高齢者の受診抑制がさらに進まないように留意すべき」など慎重な意見も出ている。
また、2割負担化の対象を限定して実施するとしても、2割負担化の法改正後に国会審議を経ずに政省令改正で対象拡大を図ることも可能で、2割負担の道筋をつけないことこそ肝要である。
保険医協会は、「みんなでストップ! 負担増/医療・介護の負担増の中止を求める請願」の署名運動を実施中で、患者さん・市民の声をバックに政府の負担増計画を断念させる必要がある。