(愛知保険医新聞2020年7月15日号)
この7月から歯科用金属の随時改定Ⅱが実施され、10カ月以上続いた金パラ逆ざや問題に一息つくことができた。この随時改定Ⅱは、3月25日の中医協で「歯科用金銀パラジウム合金の高騰への対応について」の案が出され、素材価格が乱高下した場合の対応として新設されたものである。
しかし、現行の随時改定Ⅱ(4月、10月改定)が告示価格のプラスマイナス5%を超えた場合に見直すというのに、随時改定Ⅰ(7月、1月改定)はプラスマイナス15%だというのだ。この違いは何も説明されていない。中医協は市場価格を参考にするというが、市場実勢価格の調査は非公開との位置づけだ。開示請求しても肝心のところは黒塗りで、当事者である私達には検証できない。その上、随時改定は実際に使用される金パラ合金の価格でなく、素材価格を調査して決める。当事者である私達の実感と大きな乖離が生じる原因がここにある。このような「特定保険医療材料価格」決定に対する乖離感は、歯科程でないにしても医科の中にもある。
今回の随時改定Ⅱの新設は、金パラ逆ざや問題があまりに酷い状態で続いていた証である。日歯も指摘するように、歯科医院の多くは小規模事業者である。この間の診療報酬改定で施設基準による選別が進み、医療経営は青息吐息、そこへ金パラ逆ざやが大きくのしかかった。この状態が続けば、現場の士気が下がるだけでなく、閉院に追い込まれる医院も出るだろう。国民皆保険における歯科医療という医療インフラが失われていく。残念だがこの事態を厚労省は静観し、現場に耐え忍ぶことを強いてきた。
―当事者である協会会員の声が厚労省を動かした―
昨年、愛知協会をはじめ各地の協会で実施した金パラ逆ざや問題の署名やアンケートで現場の声がたくさん集まった。医科の会員からも多くの声が寄せられた。この声が国会議員を動かし、今年の通常国会では幾度も取り上げられた。厚労省は「安心安全の医療を」とお経のごとく唱えるが、財務省の顔色ばかりを窺い現場を見ない改定をする。コロナ禍においても、厚労省の事務通知では、歯科医療は「不要不急」の位置づけのようだし、残念ながら日歯はこれに追随するだけだ。
今回の随時改定Ⅱの新設は、金パラ逆ざや問題を根本的に解決するものではない。しかし、当事者である私達が現場から声を上げることが、歯科医療を変革する力になることを明らかにした。今、私達がすべきことは、自分の気づきに信念を持ち、行動に移すことだ。