(愛知県保険医新聞2025年7月25日号)
被爆80年を迎え、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)と被爆者にノーベル平和賞が授与された時の感動を思い起こしたい。ノーベル委員会は受賞理由として、ヒロシマ・ナガサキの被爆の実相を国内外に伝える証言活動を強力に継続していること、そして、その並外れた努力により、核兵器は非人道的な大量破壊兵器であり、二度と核戦争を起こしてはならないとする国際的な常識(「核のタブー」)を醸成したことをあげている。「核のタブー」は人類の平和な未来の前提条件である。私たちは被爆者から平和のバトンを受け継ぎ、被爆者の声をもっともっと世界に広げたい。
日本被団協の田中熙巳さんは被爆80年を迎え、「どうしてこんな危機的状況を迎えているのか」と憤っている。ウクライナと中東では核保有国を巻き込んだ戦争と破壊が止まず、核兵器による威嚇が繰り返されている。また、核保有国であるインド・パキスタンの軍事衝突は核戦争勃発の不安を呼び起こした。大国間の軍事対軍事の対抗がエスカレートする中で、核保有国は核武装の近代化を着々と進めている。「核のタブー」の空洞化を許してはならない。
核不拡散条約(NPT)は、核兵器の保有を米・露・中・英・仏に限定して容認する一方で、他の締約国の核兵器保有を禁止している。そして、この不平等を正当化させるため、これらの核保有国には、核兵器廃絶に向けた誠実な核軍縮交渉の遂行を義務づけている。米国によるイラン核施設への軍事攻撃がイランのNPT脱退の可能性を拡大したように、軍事力で核拡散を防ぐことはできない。来年のNPT再検討会議に向け、NPTを基礎とした国際的な核不拡散体制を堅持するための行動を起こすよう、日本政府に要請する。
核兵器禁止条約(TPNW)は核兵器の非人道性に焦点を当て、国際法として核使用を許さない確かな力を発揮している。すでに世界のおよそ半数の国々が批准・署名しており、国内でも、日本政府にTPNWへの参加を求める意見書決議が本年7月現在、726自治体議会(全体の41%)で採択されている。また、朝日新聞によれば日本のTPNW参加を望む世論は73%となっている。日本政府は国民の願いに応え、唯一の戦争被爆国としての役割を果たすため、早急にTPNWに参加すべきである。
被爆80年、私たちは医療人としての使命感を持って、被爆者とともに核兵器のない平和な世界への扉を開いていきたい。