医師の働き方改革

愛知保険医新聞2025年6月25日号掲載

岡崎市 大西 正純

私は大学や公立病院の勤務医を経て30年余開業医生活を送り、再び非常勤の勤務医になりました。その間、社会全体の働き方が大きく変わり、「24時間働けますか?」から「ワーク・ライフ・バランス」の時代へと変わってきました。医師も例外ではなく、働き方を大きく見直す時代になってきています。私は「研修医は24時間病棟にいなさい」と言われて育ってきましたが、今の研修医は9時から5時の勤務で当直をしたら翌日は午後からお休みの時代です。
簡単に働き方改革と言っても、業種によっては進めやすい業種と進めにくい業種があります。例えば、(1)長時間労働が常態化している職種、(2)人との接点が非常に多い職種、(3)個人の裁量で業務を進めにくい職種――などは働き方改革が進めにくい職種と考えられています。
医療や介護、福祉はこのすべてに当てはまり、非常に働き方改革が進めにくい職種の代表的なものです。今まで12時間勤務で行っていた仕事量を8時間勤務で行うには、単純に考えても1.5倍のスタッフが必要になります。その他の要素も加わってくるので、効率化を進めるだけでは達成できる目標ではありません。目標の達成のためには、スタッフの増員が必要になります。
しかしながら、医療では医師の絶対数が不足しています。また、多くの病院や事業所では医療費削減の影響によって赤字経営に陥っており、魅力的な環境整備が困難になって相対的に選ばれにくくなっている事などが壁として立ちふさがってきます。
やむを得ず、医療の現場では緊急回避的に現状を無視して宿日直の申請をしたり、自己研鑽の時間に学会発表や患者さんの治療法を調べたりするデスクワークを含める事でつじつまを合わせようとしています。宿日直については今後さらに規定を緩めたり、複数の病院当直の兼務許可にまで緩和を進めようとする動きがあります。字数の制限があるために詳しくは述べませんが、介護や福祉の分野も同様に現場は苦しんでいます。
医療や介護、福祉の現場を守りつつ医師の働き方改革を行うには、医師の絶対数が不足していることを国に認めさせると同時に、医療費削減政策の見直しを強く迫る必要があると考えます。

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