患者安全活動は最優先の課題~名大病院の取り組み

愛知保険医新聞2022年8月25日号掲載

協会勤務医の会は、7月16日(土)協会伏見会議室で、長尾能雅氏(名古屋大学医学部附属病院患者安全推進部教授)を招き、学習講演会を開催した。「標準事故調査手法から学ぶ日常診療の注意点」をテーマに、現地13人、オンラインで41人が参加した。以下、講演要旨を報告する。(文責:編集部)

医療事故調査制度は2015年10月から始まった。これまで行政主導で医療安全管理者の配置やインシデントレポートシステムの導入などさまざまな取り組みや改善策が実施されているが、院内調査手法が標準化されていないことが課題になっていた。
「医療安全管理部門への医師の関与と医療安全体制向上に関する研究」(2015-16年度厚労科学研究班)で、医療機関に求められる患者安全業務の全体像を、平時の活動と有事の活動(患者安全活動のループ)に区分して整理したが、医療事故調査は有事業務に位置づけられている。

医療事故の範囲は、「医療に起因し、または起因すると疑われる死亡又は死産」であって、「管理者が予期しなかったもの」とされている。この場合、医療機関は医療事故調査・支援センターに届出を行い、外部の支援を求めつつ医療事故調査を行う必要がある。診療行為は、診断→治療選択・適応判断→インフォームド・コンセント→処置・治療→管理→記載の六つのプロセスで構成される。医療事故を検証する場合、この六つの診療プロセスが標準から逸脱していないか事前的評価視点で検証を行う。事故検証の標準手法を理解することにより日常臨床で気をつけることが認識できる。また、定型化された事故検証を繰り返すことにより整合性のとれた再発防止策が導入されていく。

名古屋大学病院では、年間13,500件のインシデントレポートが集積される。医療ミスの可能性が否定できず患者が死亡した事例は、事故調査対象から外さず対応している。死亡事例のうち緊急で事故性の判断を行う事例は年間10件。そのうち医療事故調査を行う事例は年間1~2件で、対象になるか否かは、最終的に病院長が決定する。
事故調査等から導かれた再発防止策は、平時の業務においてモニタリングされることにより有意義なものとなる。

調査の対象にならなかった事例も、平時の患者安全活動に活かされる。インシデントレポートなどから問題を抽出し、多職種カンファレンス等による検討、手順の見直し、研修、モニタリングなどPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルに準拠し、品質管理手法を活用しながら業務の改善を図る。
患者安全の取り組みは既存の業務のオプションではなく最優先の課題だ。患者安全活動には、安全に対し積極性と肯定性を持った医師の関与が不可欠である。医師法改正により、医学生が診療行為を実施することが可能となる。今後、学生にも指導者側にも、患者安全の正しい理解と実践が一層求められることになる。

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