2006年2月5日

医師は命奪う戦争に人を送らない

名古屋大学副総長・同大学前医学部長
杉浦康夫氏にきく


 「あいち医師・歯科医師九条の会」と「九条の会 医療者の会」のよびかけ人で名古屋大学副総長(前医学部長)の杉浦康夫氏に「守ろう九条」の思いを聞いた。


――加藤周一氏や大江健三郎氏らが呼びかけた「九条の会」アピールへの賛同をよびかけていますが、その思いは。
 昭和22年生まれで、物心ついた時から空気のような存在の憲法のもとで教育を受けてきたので、いまなぜ変えるのかという素朴な疑問が1991年の湾岸戦争時に日本は一兆円を超える予算を拠出しましたが、一瞬のうちにそれだけのお金が戦火の中に消えていくのはやるせない思いです。この戦争以来、日本は行かなくてもよい戦争に協力していますが、戦力不保持や交戦権を否定する九条を守らなければと思う一番の理由はここにあります。
 また、戦後60年の昨今、あの戦争は何だったのか、語り始める人がたくさんいます。彼らは日本の現状を見て、自らの封印を解こうとしていると思います。そういう危機感をもった人たちのように、一度立ち止まって九条を見つめ直し、守る行動を起こさなければと思っています。

名古屋大学副総長・同大学前医学部長 杉浦康夫氏 ――医療人としての思いは。
 ベトナム戦争では、ナパーム弾などによる怪我や肢体不自由児が生まれ、いまでも後遺症に苦しんでいます。戦争は、化学兵器や細菌兵器など人の考えつかないこともやってしまう。戦争で最後に犠牲になるのは子どもたちです。一方で米国の帰還兵士も心を病んでいます。このような後遺症に苦しみ続ける人を医療対象として診るというのは心が痛みます。
 人の命を守る医師として、人の命を奪う戦争に人を送り出さないこと、傷ついた人が後遺症で長く苦しまなくてはならない世界を絶対つくってはならない。それが医師としての務めではないかと思います。医師・歯科医師の先生方には、日常診療をしながらでいいですから、九条の大切さを語っていただきたいですね。

――名古屋大学はアジア各国との連携に積極的ですね。
 大学として学問・医療を通じた国際貢献を進めています。「ヤング・リーダーズ・プログラム」でベトナム・ラオス・ウズベキスタンなどの保健医療制度作りのリーダー養成に協力しています。法学や経済学などで協力する大学は他にもありますが、医療では名古屋大学が唯一となっています。
 私たちは、医療をはじめ、知識・人材面での国際協力は惜しみません。しかし、軍事面での協力はしたくありません。アジア各国と学術交流をもとに信頼関係を築きつつあるところに、軍隊を送ってくれるな、と強く思いますね。

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