2020年4月8日

日本国憲法の平和主義の「現実性」

守山区 橋本 政宏
 日本国憲法の平和主義の理念は、「非現実的で実現不可能な理想」なのだろうか。一般的には「理想」と「現実」を機械的に対立する概念と捉えるが、私は「理想」は現実を無視して描く空想ではなく、現実を直視し緻密な分析を積み重ねて導き出されるものと考える。日本国憲法の平和主義の理念は一見「非現実的」に思えるが、日本を取り巻く情勢を冷静に分析すれば、極めて「現実的」である。
 私が子どもの頃は「ソ連脅威論」がよく言われた。今は中国を脅威と考える人が多い。現在の中国は世界第2位の経済大国となり、軍事力は予算規模で日本の4.8倍(2019年)である。装備の近代化も急速に進んでいる。日本が軍事力で対抗することは不可能である。では、例えば日中で尖閣諸島をめぐって軍事衝突が起きた場合、米軍は出てくるか。安保条約があるから出てくれると思う日本人は多いだろう。しかし安保条約には「自国の憲法上の規定及び手続に従って」とあり、軍事介入には連邦議会が承認する必要があるが、それはまず考えられない。なぜなら現在、米国がアジアで最も重視している国は日本ではなく中国であり、日中の軍事衝突に日本に味方して軍事介入することは、米国には全く利益にならないからである。安倍首相は日本国憲法が古くなったというが、古くなって見直したほうがよいのは、明らかに日米安保条約であろう。
 平和を守るとは、他国と戦争をしない・させない状態を努力して維持することである。それには軍事力よりも外交力の方がよほど重要である。お互いの主張には必ず理がある。自国の主張だけでなく相手の主張もよく知ったうえで、それぞれが納得できること・できないことをお互いに確認し、すぐに解決できないことは棚上げ・先送りにするのが賢い選択だ。現在、戦争をするとは全く考えられないドイツとフランスは、過去に何度も戦争をしてきたが、その歴史を乗り越えて信頼関係を築いている。何の努力もなしにこのような信頼関係が築かれることは決してない。日本の場合はどうかをしっかりと学ぶ必要がある。
 日本がこのまま米国言いなりの政治を続け、軍事力を強化すればするほど、ロシア・中国・他のアジア諸国からの信頼を失い、領土問題などの解決も遠のくと思われる。日本国憲法の平和主義がもつ現実的な力を、今こそ再確認したい。

◎参考文献:孫崎享「不愉快な現実」(講談社現代新書)2012年

ページ
トップ