日進市 久野 よし乃
歯科医師になって二十七年が経とうとしている。振り返ればあっという間の月日であり、患者さんに初めて麻酔の注射をしたときに緊張のあまり手が震えてしまったのを今も覚えている程である。そう考えれば、私が生まれた昭和四十二年というのは太平洋戦争終戦からわずか二十二年しか経っていなかったという事実に驚いてしまう。戦後は遠い昔のことではなく、平和な時代はまだ始まったばかりなのだ。
ではなぜこの短い間に、少なくとも日本に生活している大多数の人が「戦争」を過去のものとして捉えているのか。それはやはり憲法九条で「日本は戦争をしない」ということを掲げているからだと思う。憲法九条はこの平和な時代を未来につなぐ命綱である。しかし、世界は九条ができた頃とは確実に変化している。
私たちはもはやこの命綱にひたすらしがみついているだけでは平和な生活を維持していくことはできないだろう。
九条を持ち、戦争をしないことで日本は豊かになった。今はこの事実を世界に発信し、日本だけでなく世界で九条の精神を生かしていくように動く時期になっているはずだ。命綱は自分たちだけがつかむのではなく、世界中に投げていかなければいけない。そして世界も日本にそれを期待しているのではないだろうか。
戦争を体験しない世代も、ここ数年日本各地で大災害が起こり、あたりまえの生活が一瞬にして崩れてしまう恐ろしさを目の当たりにしている。どんなに巨大な防波堤をつくっても自然の猛威は想定を超えて襲ってくる。それに比べれば、戦争という大惨事は憲法九条で防ぐことができるのに、今、その力を骨抜きにしようとする動きがある。
九条の力を守ろう。
九条の力を知らせよう。
そして世界のために九条を生かそう。
2018年11月29日