2022年11月2日

オンライン資格確認「義務化」撤回を-杉藤税経部長インタビュー③                 「マイナンバーを医療に持ち込むな」

 保険医協会は、オンライン資格確認システム導入「義務化」撤回を求め運動を進めています。その運動の先頭に立って奮闘している杉藤庄平税経部長に聞きました。今回から3回にわたり掲載します。

■河野デジタル担当大臣は、紙やプラスチックの保険証を2024年秋にも廃止することを表明しました。どのように受け止めていますか?

 マイナンバー制度が始まって7年近くが経ち、二度のマイナポイント付与によるカード普及キャンペーンを行いましたが、いまだにマイナンバーカードを取得した人は50%に達していません。これは、国民にマイナンバーに対する不安や不信があることが原因だと思います。
 マイナンバーカードの取得は任意だといいながら、保険証が廃止となれば事実上の義務化になります。多くの国民はマイナンバーカードによる保険証利用を希望していません。マイナンバーカードを保険証として使うかどうかは個々の患者の任意に委ねるべきです。
 マイナ保険証は、マイナンバーカードの電子証明書に有効期限があるため更新せず受診した場合に窓口で混乱が生じたり、災害時の停電やシステム停止・故障時に資格確認ができないなど懸念があります。

■政府は何故、オンライン資格確認のシステム導入を急ぐのでしょうか。マイナンバーカードの交付状況は9月末時点で49.0%ですが、先生はどのようにお考えですか?

 住基カードが普及しなかったことのトラウマがあり、総務省はマイナンバーカードの普及促進に必死なのだと思います。保険証は国民のほぼ全てが持っていますので、マイナ保険証を推進すれば、マイナンバーカードが普及すると考えているのでしょう。医療が、マイナンバーカード取得促進のために利用されたのだと思います。
 しかし、マイナンバーは、家の鍵も、金庫の鍵も、倉庫の鍵も、車の鍵も、一つの鍵で共有するようなシステムです。個人情報の流出に慎重な考えの国民に100%普及させるのは難しいのだと思いますが、保険証の廃止の方針はあまりにも乱暴です。
 マイナンバーカードの電子証明書は公的個人認証に活用されます。顔写真もデジタルデータとして紐付けられますが、指紋の1000倍の個人認証能力があるといわれている顔情報は、将来的に防犯カメラや監視カメラを通した監視社会の礎になる可能性があります。

■政府は、オンライン資格確認のシステム導入を「医療DXの基盤」と位置付けています。「医療DX」で医療現場のメリットや懸念についてどのようにお考えですか?

 医療DXの促進は、とても重要な課題だと思います。医療の効率化、診断の正確さの追求、予防医療の推進など、大きく医療を変えていくのだと思います。それだけに、稚拙で拙速な医療DXの導入は、間違った方向に医療を方向づけする恐れがあります。
 医療DXは、レセプト・特定健診等情報に加え、予防接種、電子処方箋、電子カルテ等の情報が共有・交換できる「全国医療情報プラットフォーム」づくりや、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定の作業効率化などを推進しようとしています。
 医療現場がのぞむ医療情報連携について、現場の意見を十分に踏まえ、患者や国民の理解を得ながら進めるべきです。医療費抑制に向けた利活用は認められません。
 政府はマイナンバーカードを活用したデジタル化の推進でより良い医療の受療につながると言っていますが、医療DXと、医療情報の民間活用と医療費抑制につながるマイナンバーとは切り離して考えるべきです。医療専用のIDを導入すれば、対応できます。

■最後に、オンライン資格確認のシステム導入「義務化」について政府に一言お願いします。

 保険医協会は医療のデジタル化に反対しているわけではありません。2023年4月までにシステム導入を義務づける合理的な理由がないうえに、現場を無視した乱暴なやり方に反対しています。
 システム導入は各医療機関の実情にあわせてそれぞれの判断に委ねること、また保険証は全員に交付したうえで、マイナンバーカードを保険証として使用するかどうかは個人に任せることが現実的で合理的です。
 マイナンバーを医療に持ち込まないでください。

(おわり)

(愛知保険医新聞2022年10月25号掲載)

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