(愛知保険医新聞2020年9月15日号)
7年8カ月の歴代最長政権の幕が下りた。後継最有力の菅氏は、安倍政権の政治を引き継ぐと表明した。しかし、「アベノマスク」、Go Toキャンペーンなどの迷走ぶりを目の当たりにしてきた国民が、安倍政治の継承を望んでいるのだろうか。
安倍政権が幕を引くのにあたって、改めて問われるべきは長期にわたった「安倍政治」の総括と真剣な反省ではないか。
辞任表明の会見で、安倍氏は経済ではアベノミクスによるデフレ脱却と雇用創出を成果として強調した。しかし実態は、株高や法人税減税で大企業や富裕層は優遇されたが、大多数の国民の所得・貯蓄は減少、雇用の増加も非正規の増加が真相である。内閣府は、景気拡大が2018年10月に終わりその後後退局面にあったことを認めたが、安倍政権二度目の消費税の10%への増税はまさにそのただ中で強行されたのだから、景気が冷え込んでいるのも無理はない。
社会保障も然り。医療・介護などの予算の自然増抑制は小泉政権時代を上回り、2013年度以降の七年間で4.3兆円もの削減を強いられ、診療報酬も4回連続のマイナス改定だったことは忘れ得ない。
辞任会見のなかで、安倍首相は新たなコロナ感染症対策を公表した。全国民へのワクチン確保や高齢者施設などでの検査体制充実を盛り込んだが、「医療機関の安定的な経営への支援」は厚労省から期日を示した具体化の発表は伴わず、このままでは看板倒れか来年度予算待ちになりかねない。目の前の医療危機に向き合う構えがあるのか問いたい。
安倍政権といえば、巨大与党の数の力を頼んで、集団的自衛権行使に道を開く閣議決定や安全保障法制、特定秘密保護法制の強行など、議会運営の民主主義を壊しての暴挙だった。憲法尊重・擁護義務が課せられながら、改憲を主張する姿勢も極まっていた。
加えて、「森友」「加計」「桜を見る会」疑惑をはじめとする「国政私物化」や行政文書の改ざん・隠ぺいが相次ぎ、河井前法相らによる大規模買収事件なども続いた。
新首相に、こんな安倍政治を「継承」されてはたまらない。これまでの政治の総括なくては、ただの「続・安倍政権」でしかない。そして、国会を開いて、補正予算予備費の具体化として医療機関への支援を含むコロナ感染症対策をはじめ、社会保障と経済の立て直し、種々の疑惑解明を果たすことこそ求めたい。